神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
スクルト。未来を見通す能力を持つ彼女は、僕にとってなくてはならない存在だった。

彼女に出会って僕は初めて、孤独を埋められる幸福を知った。

これまでずっと苦しんできた自分に、神様がご褒美をくれた。

そんな風に思えた。

馬鹿みたいだ。神様なんて、信じたことは一度もなかったのに。

スクルトに出会うまで、僕にとって、世の中には二つの種類の人間しかいなかった。

一つは、僕を傷つける者。

そしてもう一つは、僕の存在に無関心の者。

決して、僕に向かって微笑みかける者なんていなかった。

…あぁ、でも。

リリス様は、僕にも優しかったっけな。

だけどリリス様にだって、そう滅多にお目にかかることは出来なかった。

同族達は、お前ごときがリリス様に謁見するなどおこがましい、と言って僕とリリス様を遠ざけようとしていたから。

それにリリス様は随分前に、僕達を置いて冥界を出ていってしまった。

結局、僕は一人ぼっちのまま。

誰にも受け入れられないままだった。

リリス様がいなくなって、僕を庇ってくれる人がいよいよ一人もいなくなって…。

冥界からも追い出された僕は、一人で現世を彷徨っていた。

そして、スクルトに出会った。

盲目の彼女は、僕の姿を見て悲鳴をあげることはなかった。

でももし、彼女の目が見えたなら。

そのときは、僕を見て何と言っただろう。分からない。

彼女もまた、大勢の他の人と同じように、僕を恐れて悲鳴をあげたのかもしれない。

「私、あなたに会えて良かったわ」

スクルトは、微笑みながらそう言った。

…僕も、そう思っていた。

あんなことが起きるまで、ずっと。

「何も心配要らないわ、マシュリ。私達の未来は明るいから。この先何が起きても、ずっと変わらない」

…どうしてそんな風に言えたんだ。

だって、僕が隣にいたせいで。

バケモノの僕が、スクルトと出会って心を満たされようとしたが為に。

スクルトは僕の罪に巻き込まれて、命を落とすことになってしまった。

その未来が、スクルトには見えていたはずなのに。

どうして彼女は。

最期の瞬間に、この世に何の未練もないみたいな顔をして…。
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