神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「あ、いや。別に…。…何処行ったんだ?」

「ちょっと買い物にな…」

シルナは、朝から学院を留守にしていた。

マシュリの暴走を抑える為のブツ…の、加工が終わったとのことで、早速取りに行ったのである。

…ついでに、行きつけのケーキ屋で、チョコパウンドケーキを買ってくるんだってさ。

「皆、モンブランよりパウンドケーキの方が好きなのかもしれない」って、真面目な顔で言ってた。

そういう問題じゃあないと思うが、もう好きに思わせておくことにしたよ。

「あと2、30分もしたら帰ってくると思うんだが…。…ここで待ってるか?」

折角客人が来てくれたというのに、肝心のシルナが不在とは。

こんなことなら、ケーキ屋なんて寄らずに、さっさと帰ってこいって言っておけば良かった。

しかし、ジュリスは。

「いや、用事があるのはシルナ・エインリーじゃないんだ」

…とのこと。

何?シルナじゃない?

シルナは用無しか。

「そもそも…用事があるのは俺って言うか…」

そう言って、ジュリスは自分の横に座っている、ベリクリーデに視線を移した。

「あ、お砂糖だー」

そのベリクリーデは、ジュリスの視線にも気づかず。

テーブルの上の砂糖入れを開けて、角砂糖を一つ摘み、そのまま口に入れて舐めていた。

それ、紅茶に入れる用なんだけど…。

まぁ良いか…そのまま舐めても。

「おい、ベリクリーデ…。お前が『見に来たい』って言ったんだぞ」

「ねぇ、ジュリス」

「…何だよ?」

「ジュリスもお砂糖要る?」

「…要らねぇよ…」

「そっかー。じゃあ私が舐めるね」

もう一個、角砂糖を口に入れるベリクリーデ。

甘いものに飢えてるんだろうか。シルナの秘蔵のチョコでも出そうか?

…まぁ、砂糖はこの際どうでも良いとして…。

さっきジュリスが、気になること言ってたよな…。

「『見に来たい』って、何を?」

ベリクリーデが何か見たがってたんだよな?

「さぁ。俺も聞いてないんだ。おいベリクリーデ、いい加減話してくれ」

「?」

「首を傾げるなよ。お前が来たいって言ったから、任務前に学院に寄ったんだぞ」 

二人共、これから任務なのか。

「うん。凄く悪い人を見に来たの」

と、ベリクリーデ。

凄く悪い人…っていうのは…。

「マシュリのことか…?」

悪い人、って言ってやるなよ。

別にマシュリが悪い訳じゃないんだから。

「うん、その人」

「何でマシュリに…?今頃、中庭で猫の姿になってると思うけど…」

昼間だからな。生徒の前では、常にいろりの姿でいる。

「その人、元気?何してるの?」

「元気だと思うぞ。最近キャットタワー届いたし…」

学生寮のエントランスに設置したら、そりゃもう大興奮で登ってた。 

そして、そのまましばらく降りてこなかった。

俺とシルナとナジュと天音のポケットマネーが吹っ飛んだが、あれだけ喜んでくれたら、買ってやった甲斐があるというものだ。
< 275 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop