神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
―――――――…人間とケルベロスのハーフ、マシュリ・カティアが暴走を始めた、その瞬間。

私は…ベリーシュ・クルークスは目を覚まし、本体であるベリクリーデと入れ替わった。

だが…もう無理かもしれない。

「…っ、間に合わなかった…!」

迂闊だった。本当に迂闊だった。

ベリクリーデはずっと気づいていた。

ただ、それを上手く言葉に出来なかっただけで。

もっと早く私が出てきて、ジュリスでも誰でも良いから、警告すべきだったのだ。
 
この、「凄く悪い人」の傍にいちゃいけない。

この人の罪に巻き込まれて、大勢の人が苦しむことになる。

既に暴走を始めた以上、今更何を言っても後の祭りだった。

「いっ…てぇ…」

羽久・グラスフィアは、膨れ上がった魔力の波動に吹き飛ばされ、壁に激突していた。

突如として爆発した魔力は、この学院長室を…いや。

イーニシュフェルト魔導学院の建物を、そのまま木っ端微塵にしてもおかしくないほど、凄まじいものだった。

しかし、幸いなことに建物は崩れていない。
 
咄嗟にジュリスが防御魔法陣を展開して、衝撃を吸収したからである。

「ジュリス…!大丈夫…!?」

咄嗟に防御魔法陣を、しかもこれほどの凄まじい魔力を吸収させたのだ。

ジュリスは既に膝を付き、息を荒くしていた。

「あ、あぁ…。…間一髪だったがな…」

本当に。

ジュリスの防御魔法陣が間に合ってなかったら、今頃私達は、破壊された瓦礫に埋もれていたはずだ。

でも…第一波を凌いだだけで、これからそうなる可能性は充分あるけど。

…目の前の光景が、とても現実のものだと思えない。

「…これが…罪の姿」

ベリクリーデがずっと警告していた。マシュリ・カティアの真の姿。

異形としか言いようがない。恐ろしい獣の姿だった。





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