神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
意見箱を揺すってみると、中からザラザラと紙の擦れる音がした。

おぉ。結構入ってるじゃないか。

皆、色々意見をくれてありがとう。

この中にはきっと、俺達教師陣の考えた名前より遥かに素晴らしい名前が書いてあるだろう。

やはり、生徒に意見を募って正解だったな。

…すると。

「どんな名前になるかな?」

「ツキナも書いたらしいよ。だいこんちゃんだって」

興味津々といった様子で、令月とすぐりが意見箱の開封を待っていた。

…。

…あのさぁ。

なんか、当たり前のようにここにいるんだけど。

「お前ら知ってるか?下校時刻過ぎてんだぞ」

「?うん、そうだけど…それがどうかしたの?」

どうかしたの、じゃないだろ。

これ、素で言ってるからな。悪ふざけとか悪戯のつもりじゃなくて。

お前ら、下校時刻過ぎてからうろうろするのが当たり前になってるのかもしれないが。

他の生徒は学生寮に帰ってるんだからな。お前らも帰れよ。

「そんなことより、早く開けようよ」

そんなことって何だよ。大事なことだろ。

…はぁ、まぁ良い。

また屋根裏や床下に潜まれるよりマシだ。

こうして姿を現しているのだから、今日はまだ良い方だよ。

俺は意見箱を開封し、机の上に記入用紙を広げた。

ザラッ、と出てくる記入用紙の山。

すげー入ってる。予想以上だ。

「わぁ、凄い。いっぱいある」

「皆、たくさん考えてくれたんだね」

「猫の名前などではなく、その意欲を勉強に活かして欲しかったですね」

そう言うなよって、イレース。

たまの息抜きみたいなもんだろう。

「色々ありますね。えーと…。レオン、モカちゃん、りんごちゃん」

「こっちは…タルト、ティアラ、すふれちゃん…」

生徒達も、こいつがオス猫だってこと忘れてるのかもしれない。

と言うか、多分意見をくれた大半の生徒が、女子生徒だからだと思う。

三日間様子を見てたけど、意見箱にくっついていたのはほとんど女子生徒だったから。

可愛い名前にしたいのは分かるが、オス猫にちゃん付けはどうなんだろう。

「ソーダくん、ねこ太郎、モモくん、なっとう…。やっぱり食べ物の名前が多いね」

確かに。

多種多様な食べ物の名前ラインナップ。

まぁ、親しみやすいもんな。呼びやすいし。

でも納豆はどうなんだ…?

「あ、見てください。クレオパトラ3世だって。奇しくも僕と同じ発想ですね」

と、ナジュは一枚の記入用紙をぴらぴら振りながら言った。

マジかよ。ナジュと同レベルの生徒がいるのか?

なんか情けなくなっていた。

「…山ほど意見が集まった訳ですが」

イレースが、大量の記入用紙を見下ろしながら言った。

「この中から、どうやって名前を決めるつもりですか?」

「…あっ…」

それは…。

…ちょっと、考えてなかったな。
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