神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
だが、この作戦も容易くはなかった。

「この人の魔力は底無しですか」

でたらめに魔力を暴れさせるマシュリに、イレースが溜め息混じりに愚痴っていた。

…本当にな。

マシュリが暴走を始めて、一体何分経った?

最初に比べれば、かなり疲れた様子ではあるが。

未だに、マシュリの魔力が底をつく様子はない。

どうやら魔物の保有魔力量は、俺達人間とは大きく異なっているようだ。

「しかもこの人、毒が効かないね」

と、令月。

毒だと?

「刀身に毒を塗ってきたんだ。身体を痺れさせる毒…。即効性のはずなのに、全然効いてる様子がない」

…マジかよ。

毒も通じないし、魔力が尽きるのを期待することも出来ない。

…じゃあ、やっぱり…マシュリを止めるには、シルナが持ってきたあの指輪しかないらしいな。

覚悟を決めて、俺は懐中時計を掲げた。

「すぐり、行けるか…!?」

「誰に言ってんのさ…。良いよ」

すぐりの準備も完了した。

あとは…。

「イレース、それから令月…!」

「言われなくても分かってます」

「いつでも」

イレースは杖に雷を迸らせ、それを最大火力でマシュリの脳天に炸裂させた。

凄まじい威力の落雷に、さすがのマシュリも一瞬怯む。
 
そして、本能的に危機を感じたらしいマシュリは、でたらめに魔力の塊を撒き散らした。

その全てを、壁を蹴って加速した令月の両刀が切り裂いていった。

一つとして取りこぼさずに。

イレースも令月も、ここまでやってくれたのだ。

俺も、同じく彼らの期待に応えなくては。

「eimt wlosnowd dxceeeyingd」

俺は再び、極限までマシュリの時間を遅くした。

既に俺の魔力も底をつきかけているから、それほど長い時間は持たない。

でも、すぐりの為に隙を作ることくらいは出来る。

「すぐり!」

イレースの落雷に怯み、俺が時間を遅くした今がチャンスだ。
 
すぐりは両手の糸を解放し、ぐるぐるとマシュリの身体を拘束した。

更に、左右から黒いワイヤーを強く巻き付け、マシュリの動きを完全に止めた。

…好機。

「シルナ…!今のうちに!」

「分かってる。ありがとう」

シルナは、動きを封じられたマシュリに肉薄した。

「…お疲れ様、マシュリ君。…もう休みなさい」

黒い指輪が、マシュリの指に嵌められた途端。

部屋の中に渦巻いていた、禍々しい魔力の嵐が、一瞬にして霧のように消えてなくなった。
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