神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…。

…終わった、のか?

「…マシュリ…」

煙が上がるような音を立てて、マシュリはもとの…人間の姿に戻った。

マシュリの指に嵌められた、あの黒い指輪。

あれのお陰だ。

「…もう大丈夫だよ、皆」

なおも警戒を崩さない令月とすぐりに、シルナが安心させるようにそう言った。

「いかにマシュリ君と言えど…賢者の石による魔力相殺には抗えない」

…そう、賢者の石。

あの黒い指輪は、賢者の石の守り人、寿木珠蓮(ことほぎ しゅれん)に分けてもらった賢者の石なのである。

マシュリの暴走を止める為に、シルナが提案した方法というのが、これだ。

珠蓮が連絡機器として、賢者の石の一欠片を俺達に託してくれたことは、記憶に新しい。

その賢者の石を、指輪に加工し。

マシュリの指に嵌めることで、常に魔力を相殺している状態にする。

いかにマシュリの魔力が強大であろうとも、賢者の石の効力からは逃れられない。

「…でも、あの石って、強い魔力を与えると相殺しきれないんじゃなかったっけ?」

と、令月。

その通りである。

現に俺達も、賢者の石によって作られた世界から脱出するとき。

賢者の石にありったけの魔力をぶつけ、その効力を打ち破った。

しかし、その点は抜かりない。

「大丈夫だよ。マシュリ君にはこれから、いつも賢者の石の指輪を嵌めておいてもらうから」

つまり、常に魔力を相殺し続けている状態にする訳だ。

常に魔力を消されている状態では、賢者の石の効力を打ち破るほどの強い魔力を溜める…前に、それも相殺されてしまう。

要するにあの指輪は、マシュリの魔力増大の抑制装置のようなものだ。

常に使える魔力を一定以下の量に抑え、マシュリの暴走を防ぐ。

「更に…私が独自に改良をして、更に強い魔力に耐えられるようにしたんだ」

と、シルナは悪戯のバレた子供のような顔で言った。

おっさんがそんな顔するなよ。

ちなみに、珠蓮には事後報告となる。

あいつが託してくれた賢者の石を、こんな私的利用してしまって。

本当に申し訳ないと思ってるよ。

今度珠蓮に会ったら、俺も一緒に謝ろう。

「だから、この指輪を嵌めている限り、マシュリ君は暴走しない」

これが、シルナの計画だった。

マシュリの暴走を防ぐ為に。

シルナがこの計画を提案してから、今日に至るまで、時間が空いてしまったのは。

指輪の加工に、時間がかかってしまったからである。

…ギリギリ間に合って良かった。

暴走があと一日…いや、あと半日で良いから、遅かったら。

こんな苦労はせずに済んだんだがな。

まぁ、生きてるんだから良い。

誰も死なかったんだから安い。

…でも。

「…マシュリ。大丈夫か?」

「…」

このような姿を俺達に晒してしまった、マシュリとしては。

死ななかったんだからそれで良い、なんて…とても言えないだろうな。
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