神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺はかいつまんで、その賢者の石を手に入れた経緯を説明した。

「…成程…。それで、その賢者の石がここに…」

「あぁ、そういうことだ」

「…そんな大事な借り物なのに、勝手に指輪に加工して良かったの?」

「…」

…うん。

それを聞かれると痛いから…。今度珠蓮に会ったら、平謝りだな。

まぁでも、珠蓮ってほら、心が広いから。

賢者の石を持ち逃げしようとしたミルツのことも、広い心で許していたから。
 
こういう事情があったんだって説明したら、多分許してくれるんじゃないかと思う。

許してくれなかったら…そのときは、俺とシルナで責任持って謝ろう。

「と、とにかく…。それを嵌めている限り、マシュリ君が暴走することはないはずだよ」

と、シルナ。

「そうだね…。…暴走どころか、『変化』も出来な…あ」

あ?

マシュリはパンと手を叩いて、くるりと一回転。

『変化』も出来ない、と言っていたはずなのだが。

マシュリは、いろりの姿に『変化』していた。

「…猫にはなれた」

「…お前、もうずっとその姿でいれば…?」

他の姿には『変化』出来ないのに、猫にはなれるという不思議。

賢者の石を身に着けているにも関わらず、いろりの姿に『変化』することが出来るのは…。

多分、一番『変化』し慣れているからなんじゃないだろうか。

その代わり、他の姿には『変化』出来ないようだ。

まぁ、良いんじゃないのか?

いろりは生徒達の人気者だからな。いなくなられたら困るし。

そのまま、いろりの姿でいてくれ。

マシュリが無事にイーニシュフェルト魔導学院で生活していけるなら、人間だろうが猫だろうがケルベロスだろうが。

どんな姿でも構わないよ、俺は。

それがマシュリである事実は変わらないんだから。
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