神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
いろりが来てからというもの、生徒達はいろりに夢中だもんなぁ。

キャットタワーも買ったし、ボールやら猫じゃらしやら、けりぐるみやら…。

いろりってな、中身が人間だからか知らないけど。
 
結構あざといんだよな。

多分、それが人気の秘訣なんだと思う。

最近では、例の新聞部がいろりの特集記事を掲載した新聞を発行し。

それが異例の発行部数で、大反響を呼んでいるとか…。

イケメンカリスマ教師でも、猫には勝てないようだ。 

まぁ、ナジュはまだマシだよ。

猫が苦手な一定数の生徒からは、未だにナジュの方が人気みたいだし。

一番可哀想なのはシルナだ。

ナジュに生徒を取られ、ついでにいろりにも取られ。

一人ぼっちになったシルナは、連日、配り損ねた大量のチョコ菓子の在庫を抱えて、一人涙を呑んでチョコを齧っている。

あいつは、全然在庫が捌けない癖に、何故チョコ菓子を大量に買ってくるのをやめないのだろう。

買い物依存症…?

多分、自分が生徒に見捨てられた事実を認めたくないんだと思う。

今日もシルナは、誰にも相手にしてもらえず、そこで一人でチョコクッキーを齧っていた。

「…羽久が、私に失礼なこと考えてる気がする…」

「気のせいだ」

良い歳したおっさんが、子供みたいにいじけるな。

仕方ないだろ。猫は可愛い。これは世の真理である。

何より、いろり…マシュリ本人が楽しそうに過ごしてるから、それで良いんだよ。

「今日ね、誘ったんだよ。放課後に…」

シルナはポリポリとクッキーを齧りながら、遠い目で呟いた。

は?

「生徒達を捕まえてね…。クッキーあるからおいでって…」

…そんなことしてたの?お前…。

「そしたらね…。『放課後はいろりちゃんと遊ぶから無理です』って言われちゃった…」

…身も蓋もない断られ方。

「…ドンマイ」

クッキーごときじゃ釣られないんだよ。シルナじゃないんだから。

潔く諦めて、お菓子を買う量減らしたらどうだ?

しかし、それで退くシルナではなかった。

「悲しかったからね…。他の生徒を捕まえて誘ってみたんだ」

一度では諦めきれなかったらしい。

「でも断られて…。他の生徒も誘ったけど、その子も断わって…」

「…」

「それから他の生徒にも声かけたけど、『行けたら行く』って言われて」

九割方来ないけど、もしかしたら来るかもしれないから、準備だけはしておかないといけない、一番困るパターンだな。

「結局まだ来ない…」

「…諦めろ」

行けたら行く、は体良く断る常套句みたいなもんだから。

潔く諦めて、大人しく一人でクッキー齧ってるんだな。

…すると。

学院長の扉が開いて、客人が入ってきた。
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