神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「じゃ、じゃあ、じゃあ…歓迎会じゃなくて、そう…快気祝い!快気祝いならどう?ナジュ君も羽久も、やっと元気になったんだし…」
 
ナジュはともかく、俺は何日も前から元気だったけどな。

しかし、パーティーを開く口実など、イレースにとってはどうでも良い。

「お断りします。ようは、皆で集まって菓子を食べて騒ぎたいだけでしょう」

「うっ」

図星らしい。

「良いと思わない?たまには…」

「生徒に相手にされないからって、私達で妥協しないで欲しいですね」

ことごとくイレースの方が正論言ってて、シルナには反論の余地もない。

諦めろってことだな。

「酷い、酷いよ…。チョコ成分が…足りてない…」

一人でチョコ食ってれば。

毎回毎回付き合わされる、こっちの身にもなってみろ。

…と、思っていると。

「…あっ!いろりちゃんだ!」

開けっ放しの窓のさんに、いろりがしゅたっ、と降り立ち。

くるりと一回転して、マシュリに戻った。

「よう。お帰り」

「ただいま」

どうやら、いろりからマシュリ、マシュリからいろりへの『変化』なら。

賢者の石の指輪を嵌めたままでも、すっかり習得したようだな。

その『変化』するところ、他の生徒に見られるなよ。

さすがに洒落にならないからな。

まぁ、マシュリのことだから、その辺は心配しなくても大丈夫だと思うけど…。

…と言うか…。

「もう戻ってきたのか?下校時刻、まだだろ」

俺は、ちらりと時計を見ながら言った。

放課後はいつも、人気者のいろりは、生徒にもみくちゃにされているのだが。

今日は戻ってくるのが早いぞ。

もみくちゃにされ疲れて、逃げてきたか?

「あぁ、今日は用事があるから」

とのこと。

…用事…?

「用事って…?」 

「うん、集会」

…集会…?

「集会って…?」
 
「三丁目の空き地に野良猫達が集まって、皆で話し合いするんだ」

…まさかの、猫の集会だった。

「…お前人間だろ」
 
「えっ?」

身も心も猫になるな。つーか、勝手に学院から出ていくなよ。

猫の集会って…都市伝説か何かだと思ってたのに…。まさか実在するとは…。

そして、その集会に当たり前のように参加しているいろり(中身は人間)って、一体。

お前はそれで満足なのか…?
 
「…何喋んの…?猫の集会って…」

それって、人間に話して良いことなのか?

「色々あるよ。結構大事な話…。隣町のブチとタマが喧嘩したとか、新作のちゅちゅ〜るの味とか、どのペットショップに置いてある猫缶が美味しいか、とか」

それって、そんなに大事な話なのか?

人間目線だと、凄いどうでも良いことのように思えるんだが…?
< 303 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop