神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
猫はしばし、テーブルの上をうろうろと歩き回った。

猫にそんな意志はないと分かっているが、その姿はまるで、本当に自分の名前を吟味しているようで。

なかなか様になってると言うか…。猫自身の意志を感じる。

いや、こっちが勝手にそう思ってるだけなんだけど。

…すると。

「あっ…」

うろうろとテーブルの上を歩いていた猫が、不意に足を止めた。

そのとき、前脚が踏んでいた記入用紙をそっと摘む。

そこに書いてある名前は…。

「えーと…『いのり』?」

「違う。『いろり』だ」

いろり…いろりか。

「彩りをもじってるのか…。あるいは単に囲炉裏から取ってるのか?」

「そうかもね」

へぇ。良いじゃないか。

食べ物の名前ばっかりってのも、どうかなと思ってたし。

モカちゃんとかりんごちゃんに比べれば、中性的な名前とも言える。

それに何より、猫が自分で選んだのだ。

文句はないだろう。

「じゃあ、今日から君はいろりちゃんだね!宜しくね〜」

「いろり『くん』だろ…」

オス猫なんだって。忘れてやるなよ。

まぁ、3文字で呼びやすいし。良いだろう。

「明日は丁度全校集会の日だったな。猫の名前、生徒達に発表する良い機会だ」

「そうだね」

「…ぼたもちくんが良かったなー…」

「…ちくわ丸…」

「僕のアレクサンドリア4世が…」

数名がなんか言ってるが、まぁ聞こえなかったことにしよう。

良かったな、猫。変な名前選ばずに済んで…。

この猫、いろりは、なかなか頭の良い猫ということなのだろう。
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