神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺の質問に対する、シルナの返答は。

「一応…フユリ様の代わりに、聖魔騎士団の名前を出して、人質の件を全面否定した…」

「…」

「それから、例の条約も…。ルーデュニアは断固反対だって主張したけど…」

「…フユリ様の言葉でもないのに、俺達がいくら否定しても無駄、か」

「…うん。ナツキ様にも、軽くあしらわれてるみたいだね」

フユリ様の言い分じゃなきゃ、俺達が何を言っても聞いてもらえない。

なんともまぁ、世知辛いもんだ。

出来ることはやってる。でも、これじゃ何もやってないのと同じだ…。

「結局、アーリヤット皇王の思い通りという訳ですか」

「…」

…イレースよ。

そんなはっきり言わないでくれ。悲しくなってくるから。

…でもまぁ、実際そうなんだよな。

いかに抵抗しようとも、俺達は未だに、ナツキ様の手のひらの上だ。

ナツキ様が高笑いしている姿が、目に浮かぶよ。

「このまま、アーリヤット皇王のぺースのままサミットが終われば…。世間は彼のふざけた言い分に傾倒するでしょうね」

「そうだね…。サミットが終わっちゃったら、ルーデュニアが無実だと証明する場もなくなる訳だから…」

後になって、サミットに参加すらしてないフユリ様が何を言おうと。

世間の目から見れば、「今更何言ってんだ?」状態になるのは明白。

誰も、フユリ様の言い分を聞いてくれないだろう。

そもそも、無事にミナミノ共和国から戻ってこられるのかどうかさえ、俺は密かに心配しているのだ。

さすがのナツキ様も、フユリ様を謀殺…までは考えないだろうと信じたいが。

そういや、最初にルディシアとマシュリがルーデュニアに来たのは、シルナの暗殺が目的だったんだよな。

やっぱりやりかねないから、不安が募るばかりである。

「…フユリ様はもう、サミット閉幕までに戻ってこられないだろう」

と、シルナ。

「それは仕方ないとして…私としては、ナツキ様の思惑が知りたいね」

…思惑って…。

「そりゃ、あの人のことだから…。フユリ様を蹴落とすのが目的なんじゃないのか?」

そして、自分の祖国…ルーデュニア聖王国をコケにするのが、あの人の思惑だろ?
 
その為に、このような深謀遠慮を…。

「それは分かってるけど…。何で今なの?これまでにも、何度もチャンスはあったはずなのに…いきなり」

「…言われてみれば…」

最近になるまで、アーリヤット皇国の名前なんて聞く機会はなかった。

突然ルディシアがイーニシュフェルト魔導学院にやって来て、詳しく話を聞いてみたら。

自分はアーリヤット皇国『HOME』から、ナツキ様に派遣されてきたって言い出して…。

あのときは、俺も度肝を抜かれたよ。

確かに…何かきっかけがあったとしても、おかしくないな。
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