神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「単に、機を伺っていただけでは?手元に駒が揃うまで…」

「まぁ…そうなのかもしれないけど…」

絶好のタイミングだもんな。

手駒として使えそうな、ルディシアとマシュリが都合良く手元にいて。

それから、口裏合わせているであろうミナミノ共和国と、何より…5年に一度のサミット。

入念に入念に準備して、満を持して今回ようやく、長年の計画を実行に移した…。

そう思えば、不思議はないのかもしれないが…。

「ともかく、ナツキ様が何を考えているのか…。最終的な目的は何なのか…。これを知らないことに、対策を立てるのは難しいね」

「最終的な目的…って?」

「それは…」

「フユリ様の暗殺が目的か、それともルーデュニア聖王国の支配が目的か、ってことでしょう?」

言葉を濁したシルナの代わりに、イレースがずばりと言った。

暗殺という物騒な言葉に、俺は内心肝を冷やした。

そこまで…そこまでやるか?

いくら憎い相手とはいえ…血を分けた兄妹だろう?

「血を分けた兄妹…だからこそ憎いんじゃないですか?」

「…ナジュ…」

俺の心を勝手に読むな…と言いたいところだが。

でも…そうか。血を分けた兄妹…だからこそ、許せないことがあるんだろうな。 

本気なのか、あの人…。本気で、自分の祖国に…。

…分からないな。シルナの言う通り。

ナツキ様の思惑が分からない以上、こちらもどう動くべきなのか…。

「和解…。和解を申し入れるべきなんじゃないかな?フユリ様とナツキ様の二人で話し合って…」

根の優しい天音は、いつも通り、平和的な解決法を口にした。

俺も、そう出来たらそれが一番だと思うよ。

でも…。

「向こうは盛大に殴りかかってきてるのに、『拳を収めて話し合いましょう』と言って、通用するはずがないでしょう」

イレースが、呆れたようにそう言った。

…残念だけど、俺も同意見だよ。

テーブルについて、シルナじゃないけど、チョコ菓子を食べながら話し合い…なんて。

そんな話の通じる相手なら、ここまで拗れたことにはなってないと思う。

「だからって、暴力を振られたからって暴力で返したら、ますます泥沼に踏み込むだけだよ…。しかも今回は、国家間の諍いなんだよ」

天音は負けじと、自分の意見を述べた。

「両国がこれ以上仲違いを続けたら、国民にまで被害が及びかねない。お互い国のトップとして、本当にそれを望んでるの?」

「…」

…少なくとも、フユリ様は絶対望まないだろうな。

自分と自分の兄のせいで、ルーデュニア聖王国の国民に累が及ぶなんて。

だから絶対、そうならないように努力するはずだ。
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