神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
難しいところだよな。

フユリ様にそのつもりがなくても、でもナツキ様は…。

…多分、もうその覚悟を決めてると思うぞ。

「だから…ナツキ様の思惑が知りたいってことが…」

「…うん。和解を持ちかけるにしても、もし…暴力に暴力をぶつけなければならないのだとしても…。ナツキ様がどのような考えを持っているのか、これを知りたい」

そうだな。

ナツキ様の思惑…目的…が分かれば、話し合いの余地も何とか、生まれるかもしれない。

「でも、ナツキ様の思惑なんて、どうやって知れば良いんだ…?」

「普通に聞いても、絶対答えないでしょうからね」

それこそ、ナジュに読心魔法でも使ってもらうか?

と思ったけど…海を挟んだ向こう側にいるんじゃ、ナジュの読心魔法も通じないよ。

「そうですね。僕は目の前にいる人間の心の中しか読めませんし」

「だよな…。じゃあ…手紙を送って聞いたら…」

「…まず、返事が送られてくるとは思えないけど」

…仰る通り。

どうすりゃ良いんだ。

まず、ナツキ様にコンタクトを取る方法がない。

ましてや、フユリ様が不在の今は…。

「どうします?向こうがそうしたように…こっちも、アーリヤット皇国に密偵でも送ってみます?」

「いや、密偵って…」

冗談だろ。

あまりにも危険過ぎる。

「…結局は…推し量ることしか出来ないって訳か」

「…そうだね」

本人に直接確認する方法はない。

なら、ナツキ様の思惑がどのようなものであったとしても、これ以上後手に回らないよう。
 
あらゆる事態を想定して、出来る限りの備えをしておくしかない。

そして、万全の状態でフユリ様の帰国を待つ。

今、俺達に出来るのは…このくらいだ。

何とも心許ないが、他に方法がないのだから仕方ない…と。








…話し合う俺達の様子を、こっそり天井裏で聞き耳立てている人物がいることを、俺は失念していた。





< 331 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop