神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
―――――――…いつものことではあるが。

僕と『八千歳』は、学院長室の天井裏に忍び込み。

部屋の中で繰り広げられている、大人達の重い会議の内容を一緒に聞いてきた。

どうやら今回も、かなり厄介なことになっているようだ。

大人達が会議を終え、学院長室を出ていったタイミングで、僕達も天井裏から這い出た。

そして、先程聞いた話をまとめる為に、いつも拠点として使っている空き教室に向かった。

「何だか、大変なことになってるみたいだね」

「ほんと。この学院は、常に何かのトラブルに巻き込まれてないと気が済まないのかなー」

昔は、もっと平和だったらしいけどね。

僕達が来てからというもの、毎回何だかんだ事件に巻き込まれてるよね。

僕達って、もしかしてトラブルメーカーって奴?

だとしたら申し訳ない。

そして、僕達がトラブルメーカーというのはあながち間違ってないと思う。

「良くないよね、このままじゃ」

「そーだね」

ルーデュニア聖王国は今、かつてない危機に瀕している。

要するに、世界中からそっぽ向かれようとしてるんでしょ?

女王がいないのを良いことに、勝手な言いがかりをつけられて。

そんなの、まともに相手する方もどうかと思うけど。

だけど…僕達が第二の故郷であるルーデュニア聖王国に、これ以上敵が増えるのは望むことではない。

ただでさえ…この国は、僕達二人を匿ったせいで。

隣国ジャマ王国から、目の敵にされているのに…。

「このまま、ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国、ってところが喧嘩し始めたらさー」

「うん」

「もしかして、ジャマ王国も介入してくるかも?」

「…そうなってもおかしくないね」

ジャマ王国…『アメノミコト』は今でも、僕達裏切り者に報復する機会を、虎視眈々と狙っているに違いない。
 
アーリヤット皇国が公然とルーデュニア聖王国の敵に回ったとしたら。

敵の敵は味方とばかりに、ジャマ王国はアーリヤット皇国と手を組んで、一緒にルーデュニア聖王国を攻撃するかも…。

大人達は、ジャマ王国の名前は一言も口にしなかった。

忘れているのか、それともジャマ王国がそこまでするとは思っていないのか…。

だけど僕達は、祖国の残虐さを忘れてはいない。

好機と見るや、素早く敵の喉もとに食らいつく。

それが、ジャマ王国…『アメノミコト』のやり方なのだ。

アーリヤット皇国に加えて、ジャマ王国の相手もしなければならないとなると…。

さすがのルーデュニア聖王国も…荷が重いのでは?

…僕達の第二の故郷、僕達みたいなどうしようもない人間を、快く迎え入れてくれた国。

この国を、他国の侵略者に好き勝手させない。

「…密偵…か」

先程の会議で、イレース先生が口にした言葉を思い出した。

アーリヤット皇王の思惑が知りたい、と言っていた。

それさえ分かれば、ルーデュニア聖王国にも勝機はあるということだろうか。
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