神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
僕の考えていることなら、当然『八千歳』も思い至っているだろう。

「『八千歳』…。一つ考えがあるんだけど」

「奇遇だねー。俺も考えがあるんだけど」

やっぱり、そうか。

気が合うね、僕達。

「この国を守る為なら、僕は何でもやるつもりだよ。…『八千歳』はどう?」

「馬鹿だなー。分かりきったこと聞かないでよ」

そうだよね。

ごめん、もう聞かないよ。

『八千歳』も、僕と同じ気持ち。

なら…やるべきことは一つ、だよね。

「アーリヤット皇国に行こう。僕達が、密偵として」 

「で、皇王の腹の中を探って、ついでに弱点とか弱みとか掴んで戻ってこよう。だよね?」

「うん」

あわよくば、僕達の手でアーリヤット皇王を暗殺するのも手かもしれない。

既にたくさんの血で汚れたこの両手。今一度誰かの血に濡れたとしても、惜しむものなど何もない。

例えどんなに高貴な生まれだろうと、どんな下らない人間だろうと、血は誰でも赤いよ。

躊躇う必要はない。

「でも…アーリヤット皇国って、海の向こうだよね?どうやって行こっか」

「そうだね…。僕達、パスポートも持ってないし…」

海の向こうにあるんじゃ、ジャマ王国からルーデュニア聖王国に来たときみたいに。

雑木林を掻き分けて、徒歩で密入国…って訳にはいかないね。

最悪、二人でイカダを作って海を渡ることになりそうだね。

あるいは、泳ぐとか。

まぁ、意思あるところに道ありと言うし。

何とかなるだろう。これまでも何とかしてきたんだから。

それに今回は、『八千歳』も一緒だ。

『八千歳』が一緒なら、僕に出来ないことは…あんまりない。

「じゃあ、早速出発の用意を…」

と、『八千歳』が言い掛けたそのとき。

「…アーリヤット皇国に行くつもり?」

「…!」

空き教室の中に、僕でも『八千歳』でもない声が響いた。

僕としたことが、気配を感じなかった。

そして、この学院の中で、僕達が気配を辿れない相手は一人だけ。

「…いろり」

人間でも魔物でもないという、アーリヤット皇国から来た『半端者』の猫であった。
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