神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「ごめん、立ち聞きさせてもらった」

猫の姿の彼は、その場でくるりと一回転。

人間の、マシュリの姿に『変化』した。

別に良いよ、立ち聞きくらい。

僕達も、いつも大人達の話を盗み聞きしてるから。

人のこと責められないもんね。

「どーしたの?学院長せんせー達に告げ口するつもり?」

それは…ちょっと困るな。

学院長が僕達のやろうとしていることを知ったら、絶対止められるだろうから。

それどころか、ぐるぐる簀巻きにされて閉じ込められるかも。
 
そんなことされなら、抜け出すのが面倒だ。

しかし、マシュリにその気はないようだった。

「いいや…。むしろ、その逆」

…逆?

「アーリヤット皇国に行くなら、僕も一緒に行くよ」

…。

…ふーん。
 
「君が真実を主張しても、世間は信じてくれないだろうって言われてなかった?」

「真実を公表する為に戻るんじゃないよ。目的は君達と同じ…。アーリヤット皇王の思惑を、僕も知りたいんだ」
 
…ふーん…。

「思い当たる節があって…。それを確かめたい。…心配しなくても、君達の邪魔はしないよ」

…だって。

僕と『八千歳』は、互いに顔を見合わせた。

正直…まだほとんど手の内を知らない相手と組むのは、あまり気が進まない。

僕と『八千歳』の完璧な連携を崩すような、不安要素は作りたくないのが本音。

だけど…。

「…アーリヤット皇国への案内役としては、この上ない助っ人だね」

『八千歳』がそう言った。

うん。僕も同じこと思ったよ。

旅行先の…ガイドさんみたいなものだと思おう。

丁度、どうやってアーリヤット皇国に密入国するかどうかで悩んでいたところだし。

道案内してもらえるなら、悪くないかも。

「分かってる。アーリヤット皇国までの道のりと、国内の案内は僕に任せて」

本人もこう言ってるし。

「それに…君達の足を引っ張るような真似はしないよ。自分の身は自分で守れる」

「…だろーね」

ド素人って訳でもないし、手を引いて守ってやらなきゃならないことはないだろう。

僕達の同行者に相応しい。

「良いよ。…でも、その代わり…密偵っていうのは遠足と一緒で、無事に帰るまでが一連の任務だから」

どんな情報を掴んだとしても、何も情報を掴めなかったとしても。

ちゃんと帰って、それを雇い主に報告するまでが密偵の仕事。
 
途中で脱落なんて、絶対許さないから。

それだけは肝に銘じて欲しい。 

しかし。

「勿論、そのつもりだよ」

…どうやら、心配は要らなかったみたいだね。

じゃあ、不死身先生辺りに見つかって、秘密のの計画がバレる前に…。

「早速行こうか」

思い立ったが吉日。

いざ、アーリヤット皇国に向けて、出発。
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