神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
最低限の準備を整え、こっそり学院を抜け出して。

マシュリ・カティアに案内されて、連れてこられたのは王都セレーナの港であった。

成程、海路で行くのか。

まぁ、船の中なら潜り込みやすいしね。

「アーリヤット皇国との貿易船が出てる。深夜に王都を出発して…4〜5日ほど経ったら、アーリヤット皇国に着いてるよ」

とのこと。

4、5日か…。サミットが閉幕して、アーリヤット皇王が自分の国に帰ってくるまでの時間と考えたら、丁度良いね。

僕らがアーリヤット皇国に着く頃に、皇王も帰ってくることだろう。 

「夜になるまで、ここで…」

と、言い掛けたマシュリは、くるりと後ろを振り向いた。

「…何?」

「…来てる」

どうやら、音か匂いで何かを感じ取ったらしい。

来てるって、何が?

学院からの追手?

心配かけないように、ちゃんと置き手紙を残してきたんだけどな。

しかし、そうではなかった。

「…あんた達、アーリヤット皇国に帰るんでしょ?」

僕達のもとに現れたのは、ネクロマンサーのルディシア・ウルリーケだった。

…何でこの人がここに。

さては、僕達が港に来るのを予見していたのか。

「そうだけど」

「無謀だなぁ。今更帰ってどうするの?」

「皇王の思惑を確かめる」

僕達の代わりに、マシュリが答えた。

「何の為に?」

「ルーデュニア聖王国を救う為だよ」

「ふーん…?別に、この国がアーリヤット皇国に支配されるなら、そのときはまた、別の国に逃げれば良いだけの話だと思うけど…」

この人、薄情だね。

自分が今いる国に、愛着ってものがないんだ。

「僕達の邪魔をしに来たの?」

もしそうなら、お引取り願いたいね。

こんなところで戦ったりなんかしたら、密航どころじゃなくなっちゃうよ。

「いいや?ただ、あんた達ならそうするんじゃないかと思って、高みの見物しに来ただけだよ」

悪趣味だね。

「…一緒に来る?」

君も、アーリヤット皇国から来たんでしょ?

ルーデュニア聖王国側についてる以上、君もアーリヤット皇王の敵だと思うけど。

「面白そうではあるけど…俺は遠慮するよ。うっかり戻ってこられなくなったら面倒だし」

戻ってくるつもりだけどね。どんな手段を使っても。

でも、そう。来るつもりがないなら仕方ないね。
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