神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「じゃあ、ここに何を言いに来たの?」

ただの冷やかし?

だとしたら帰って欲しい。

それから、僕達が今ここにいることは、学院長達には黙っていて欲しいね。

連れ戻しに来られたら面倒だし。

「ただの世間話だよ。…君、アーリヤット皇王の傍にいた『あの女』に用があるんでしょ?」

と、ルディシアはマシュリに尋ねた。

…「あの女」?

皇王の傍に…?侍従の一人だろうか。

それとも、そいつも皇王直属軍のメンバー?

「…あの人が来てから、皇王は突然、計画を実行に移した。何か関係があるはずだよ」

「やっぱり確かめに行くんだ。…そんなことだろうと思った」

ルディシアとマシュリの会話を聞いて、僕と『八千歳』は互いに顔を見合わせた。

どうやらこの二人、アーリヤット皇王が計画を決行したきっかけ(?)に、心当たりがあるようだ。

成程、それでマシュリは、僕達に同行を申し出たんだな。

「そんなあんた達の為に、一つ警告しておくけど…。あの女の周りに、結構独特な死体の影が見えたからさぁ」

「…」

「気をつけた方が良いよ」

…だって。

言いたいことがよく分からないけど、要するに。

アーリヤット皇王の傍にいるという、あの女なる人物は、要注意だってことだね。

それさえ分かれば問題ない。

「それから『HOME』の中にも、君達以上に血生臭い死体の影を感じた奴がいる」

「…」

「舐めてかかってると、君達でも返り討ちに遭うかもよ」

…ふーん。

つまり、気をつけて行ってこいよってことだね。

それならそうと言ってくれれば良いのに。

「…分かってるよ」

「じゃあ良いよ。行ってらっしゃい」

「それから、僕達がここに来たことは、学院長達には黙っておいてくれると助かる」

「しらを切っておけば良いんでしょ?別に良いよ」

それは助かった。

いずれは学院長達も、僕達がいなくなったことに気づくだろうけど。

それは、船が出港して、ルーデュニア聖王国の領海を出てからにして欲しい。

連れ戻される訳にはいかないからね。

「それから、アーリヤット皇国の船は、第7番ゲートから出港だって。さっき商人が話してるのを聞いたよ」

と、ルディシアが教えてくれた。

これは有益な情報である。

「さっき積み荷の積み込みが始まってたから、潜り込むなら今じゃない?亅

そうだね。

「分かった。…行こう、『八千歳』」

「勿論」

僕達は、ルディシアの教えてくれた7番ゲートに向かった。
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