神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
このときのシルナの喜びようと言ったら、宝くじでも当選したのかと思うほど。

「…!君達…!よく来たね!ドーナツとプリン食べに来たんだね!?」

いや、あの。

嬉しそうなところ悪いけど、多分そうじゃない。

この焦った表情を見るに、恐らく…。

「良いよ良いよ!ちょっと待ってね、今ホットチョコレートに砂糖をたっぷり、」

「そんなことより、学院長先生!」

「…そんなこと…?」

そんなことだよ、仕方ないだろ。

涙目になるな。

「私にとって、放課後のチョコティータイムは、結構重要なことなんだけどな…」

「えっ、あっ…済みません…」

生徒に気を遣わせるな。困ってるじゃないか。

「それより、どうした?何かあったのか」

シルナの代わりに、俺は生徒達に訪ねた。

シルナのチョコティータイムとやらに、付き合いに来た訳じゃないだろう。

しかも、その焦ったような顔…。

俺の予測が正しかったら、もしかして。

「それが…また、いろりが何処にもいないんです。グラスフィア先生、知りませんか?」

…やはり、嫌な予感が当たったか。

あいつ、今度は何処に行ったんだ?

脱走癖でもあるのか?猫だけに。

「あぁ、うん…。いろりな…」

「今日は奮発して、金の猫缶を越える…プラチナ猫缶を用意したのに、全然食べてないみたいだし…」

そんな猫缶あるのか?

謎の高級感を感じる。

生徒に余計な心配をさせるなっての。

何処に行ってしまったのか知らないが、絶対に連れ戻してやる。

その前に、生徒に心配をかけないよう言い訳をしておかなくては。

「大丈夫…。いろりは、そう…今、ちょっと入院中なんだよ」

「えっ、入院!?」

心配させない為に、口から出任せ言ったんだが。

むしろ、更なる心配を生み出しているような気がする。

言い訳するの下手なんだよ、俺。シルナほどじゃないけども。

「大丈夫、検査入院だから。いろりは…ほら、元々野良猫だっただろう?変な病気を持ってたら困るから」

一度言ってしまった以上、引っ込みがつかないので。

それっぽい嘘を重ねて、誤魔化していく。

「な?シルナ」

シルナにも同意を求める。

ここは上手く合わせてくれよ、大人としての貫禄を見せろ。

「え、入院っ…?」

おい。お前がキョドるな。信憑性が薄れるだろ。

目をしばたかせて、シルナに必死にアイコンタクトで伝える。

生徒に心配をかけない為に、口裏を合わせろ。

「そ、そ、そうなんだよ。ごめんね、その…事後報告になっちゃって」

よし、その調子だ。

目が泳いでるけどな。

「本当は来週の予定だったんだが、動物病院の予約に急遽空きが出たんで、今日から行ったんだよ」

「そうだったんですね」

「じゃあ、いろりは元気なんですか?」

「勿論だ」

「良かったぁ」

まさか、何処に行ったのか全く分からない、行方不明状態だとはとても言えなかった。
< 340 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop