神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
咄嗟についた嘘に騙され、生徒達が安心して学院長室から出ていった後。

「…マシュリが行方不明って、マジなのか?」

「…そう…みたいだね。生徒達が探してるってことは…」

間違っても生徒に聞こえないよう、俺達は小声で、そして真顔で言葉を交わした。

チョコクランチドーナツ貪ってる場合じゃないぞ。

「あの馬鹿、今度は何処に行ったんだ…!?」

ちっとは大人しくしていられないのか。猫の本能なのか?

「わ、分からないよ?すぐ帰ってくるかも。ほら、集会に行くって言ってたし…」

猫の集会に参加してるのか?

それならすぐ帰ってくると思うが…。でも餌食べてないってことは、午後中ずっと留守にしてるんだろう?

あいつ鼻が良いから、プラチナ猫缶なんて置いといたら喜んで食べに来るだろ。

そのプラチナ猫缶ってのがどれくらい美味しいのか、人間の俺には分からんけど。

「マシュリの奴、勝手に何処に…、」

と、言いかけたそのときだった。

学院長室の扉がバーン!と派手な音を立てて開いて、俺もシルナもびくっ、と身体を震わせた。

な、何だ?

「わーん!ナジュ先生〜っ!」

入ってきたのは、半泣きの女子生徒。

見覚えがあるぞ、この子は確か…すぐりの同級生の。

「えっと、つ、ツキナちゃん…?」

そう、その子。

園芸部の部長だっけ。令月とすぐりが所属しているという。

そのツキナが、一枚の半紙をくちゃくちゃに握り締めて、学院長室に飛び込んできた。

「ど、どうしたの?」

少なくとも、おやつを食べに来た訳じゃなさそうだな。

この泣きべそかいた顔…。もしかして、またいろり関連か?

かと思いきや。

「あれっ?あれっ?ナジュ先生は?」

きょろきょろと室内を見渡すツキナ。

「あ、いや。今日はナジュは来てないんだよ」 

あいつのことだから、また稽古場で生徒に愛想を振り撒いているか。

風魔法同好会にでも、顔出してるのかもしれない。

「ナジュ君に、何か用だったの?」

「はい。今日はニンジンを収穫して、皆でキャロットケーキを作る予定だったのに」

「えっ、ケーキ…!?…それ良かったら、私もちょっと食べ、」

「シルナは黙ってろ」

今ツキナが喋ってるだろうが。ケーキと聞いて無条件に反応するな。

「すぐり君と…隊員その2もいなくって」

…え?

隊員その2…は令月のことだよな?

「代わりに、ナジュ先生と一緒に収穫しようと思ったんです」

「あ、えと…そうなんだ…」

…それで、ナジュを探して学院長室に来たのか。

…すぐりと令月は、何処に行ったんだ?
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