神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「…あのさ、ツキナ」

「グラスフィア先生も、一緒にニンジン収穫しますか?」

いや、それは遠慮しておくんだけどさ。

「令月とすぐりは…?お前が片手に握ってる、その紙は…?」

「?これ、すぐり君のお部屋に置いてあったんです。探しに行ったら、このお手紙だけ置いてあって」

手紙?置き手紙?

「ちょっと見せてくれるか?その手紙…」

「あ、はーい」

ツキナは、くちゃくちゃに丸められていた半紙を、再び開いてみせた。

…そこには、達筆な行書体で。

『武者修行に出ます。探さないでください。』

「武者修行なら仕方ないですよね!」

「…」

笑顔で納得出来るツキナは、大物の器だと思う。

俺とシルナは、あんぐりと口を開けて言葉が出なかった。

あ、あいつら…。

「いつ帰ってくるのかなぁ。帰ってきたら、キャロットケーキでお迎えしてあげよう!」

それは喜ぶだろうな。

それ以前に、武者修行に出掛けたことに対して突っ込みはないのか? 

そこは気にならないのか?やっぱり大物だよ、この子は。

「…何なんだ?武者修行って」

「さ、さぁ…。…分かんないね…」

…もしかして。

現在、学院ではいろりも不在である。

このタイミングで、令月とすぐりから、この置き手紙。 
 
もしかして、あの三人は…。

「それで学院長先生、ナジュ先生は何処か分かりますか?」

「え、えぇっと…。…良かったら、ツキナちゃん。私が協力するよ」

「えっ!学院長先生、一緒に収穫してくれるんですか?」

「うん…」

…奇遇だな、シルナ。

俺も今、同じことを考えていたところだよ。

「良かったら、俺も手伝うよ」

「グラスフィア先生も?やったぁ!」

何だって、園芸部の手伝いなんてする気になったのか。

ある種の、現実逃避だったのかもしれない。

いや、勝手に学院を脱走したであろう元暗殺者二人の尻拭いに、せめてツキナの手伝いをしてあげたかっただけだよ。

あと、あわよくば、園芸部を手伝ってる間に三人が戻ってきたらなー、なんて…。

そんな打算もあった…の、だが。

勿論、そんなことはなかった。
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