神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
ツキナ・クロストレイと一緒に、土まみれになりながらニンジンを収穫し。
 
早速キャロットケーキを作って、シルナは満面笑みで頬張っていた。

チョコレートばっかり食ってるけど、基本的には甘いもの全部大好きだからさ。

チョコが入ってなくても、砂糖が入ってたら喜んで食うんだよ、シルナって。

しかも、それが生徒の手で育てて、一緒に収穫した野菜で作ってるんだから。余計にな。

俺もご相伴に預かったけど、美味しかったよ。

いつもシルナが食べるお菓子より、遥かに甘さ控えめでさ。

ニンジンの素朴な甘さと、しっとりとした生地が美味しかった。

…っていう、キャロットケーキの食レポはどうでも良いんだよ。

一緒に収穫して、一緒にキャロットケーキを作って食べて、それで満足したのか。

満面笑みで手を振るツキナを、学生寮に送り返してから。

「いやー、美味しかったねぇ。キャロットケーキ、滅多に食べないけど。たまには良いかもしれない」

シルナも満足そうな顔してるけど。

俺達、実はそれどころじゃないのでは?

そろそろ現実に帰る頃だぞ。

「なぁ、それよりシルナ」

「今度はさつまいも収穫するんだって。またお手伝いして、おこぼれもらおうかな」

甘いものに釣られるなって。

そんなことよりも。

「…いろりと、令月とすぐり。何処に行ったんだと思う?」

「…」

…無言になっちゃった。

気持ちは分かる。

出来たら、一生黙っておきたかった。

「…本当に何処か行っちゃったのかな?」

「そうなんじゃないの…?だって武者修行って…」

…しかし、武者修行って何するんだ?

山籠りとか?

「令月とすぐりの脱走癖はいつものこととして、いろりは…?まさか、二人について武者修行の旅に出たとか…?」

いろりって、武者修行したかったのか?

修行しなくても、充分強いだろ。

「わ、分からないよ、まだ。もしかしたら、今頃学生寮の部屋に戻ってきてるかも…」

と、シルナが希望的観測をしたそのとき。

「入りますよ」

「あっ、イレースちゃん!」

書類の束を手にしたイレースが、学院長室にやって来た。

良いところに。

「あ、あのねイレースちゃん。さっきツキナちゃんと…」

「…」

「…どうしたの?イレースちゃん」

イレースはシルナの質問を無視して、きょろきょろと室内を見渡した。

「ど、どうした…?」

「…つかぬことをお聞きしますが、今日、元暗殺者組を見ませんでしたか?」

えっ。

「午後の授業に出席していなかったんです。何処で油売ってるのかと、説教食らわせるつもりだったんですが…。ここにもいないんですね」

…マジで?

午後の授業に出席してなかったって…。…やっぱり、学院にいないのか?

「何処に行ったんです、あの二人」

「…実は、私達もその話をしてるところだったんだよ…」

もう逃げられないな。

現実逃避終了。そろそろ、真面目に現実と向き合おうぜ。

マシュリ、令月、すぐりの三人が行方不明になったという現実に、な。
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