神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…その後。

俺は天音とナジュも呼んで、教師陣が揃って学院長室にやって来た。

悪いな、皆して呼びつけて。

でも、緊急事態なんだよ。

令月とすぐりが残した置き手紙を、皆の前に出すと。

イレースが眉をしかめ、天音は顔色が青くなっていた。

ナジュだけは、俺の心を読んでいち早く事情を察していたらしく、顔色を変えなかった。

お前がまともに驚いてるところを見てみたいよ、俺は。

「む、武者修行って…。…何処に…?」

震える声で呟く天音。

何処だろうな。俺も知りたい。

「探さないでくれと言ってるんだから、探さなくて良いんでしょう」

イレースは、相変わらず辛辣であった。

そうだけどさ。でも放っとく訳にはいかないだろ。

「ついでに、マシュリさんもいないんですよね?」

「そうだよ」

「あの脱走猫…。まさか、アーリヤット皇国に帰ったんじゃないでしょうね」

お、おいおい。そんなまさか。

笑えない冗談はやめてくれよ。

…冗談だよな?

「ナジュ…。こいつらが脱走したこと知ってたか?」

と、俺はナジュに確かめてみた。

しかし。

「いえ、僕もさっき羽久さんの心を読んで、初めて知りました」

「昨日令月達に会ったときも、どうせ心読んでたんだろ?脱走とか考えてたか?」

「失敬な。僕だって、常に他人の心を覗いてる訳じゃありませんよ」

そうなの?

俺なんか、常にお前に心読まれてるから、ずっと覗いてるんだと思ってたよ。

「少なくとも昨日姿を見たときは、三人共脱走なんて考えてませんでしたよ。今日収穫するニンジンのことを考えてました」

やっぱり覗いてるんじゃないかよ。

しかし、そうか。脱走は考えてなかった…ってことは。

脱走を計画して実行に移したのは、全部今日の出来事なんだな?

「そもそも、三人が一緒にいるとも限らないよね。令月君とすぐり君は一緒だと思うけど、マシュリさんは…」
 
と、天音。

確かに。元暗殺者組はセットで動いてるだろうが、マシュリは単独で動いてるかもしれない。

令月とすぐりに、マシュリと何の関係があるのか…いまいち読めないが。
 
あいつら、置き手紙を残すなら、もう少し詳細を書いていってくれないか。

憶測が憶測を生んで、余計に心配を煽られるんだが?
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