神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「へぇ、それ毒なんだ…。全然匂いがしないね」

毒と聞いても、全く驚かない辺り。

さすが、元皇王直属軍だね。こういうものには慣れてるのかな。

「『アメノミコト』で使われる毒だからね。口に入れても無味無臭。それでいて、針の先に一滴つけて刺すだけで、大人のゾウでも5分で殺せる」

ましてや人間なんて、ひとたまりもないよね。

「『八千代』は不便だよね。そうやっていちいち毒を仕込まなきゃいけないから。俺なんて、毒魔法で一瞬だよ」

と言って、『八千歳』は毒を含ませた糸を両手から容易く出してみせた。

『八千歳』お得意の糸魔法と、『アメノミコト』仕込みの毒魔法の合わせ技である。

こればかりは、『八千歳』には敵わない。

僕は毒魔法は使えないから、こうやって自分で作って用意しておかないと使えない。

「そんな用意をしてるってことは…。君達は、アーリヤット皇王を殺すつもりでいるの?」

殺すつもり…か。

それはどうだろうね。

「何の役に立つか分からないから、用意してるだけだよ」

僕は『八千歳』みたいに、咄嗟に片手で毒を作り出すことは出来ないし。

これから僕達は敵国に潜入するんだから、何かあったときの為に、数種類の毒を常に使い分けられる状態にしておきたい。

それは、勿論敵を殺す為でもあり。

万が一自分が敵に捕まったとき、口を割ることなく自害する為でもある。

そうならないように努力はするけど。

「今のところ、アーリヤット皇王…ナツキだっけ?彼を殺すつもりはない」

殺してしまうのは簡単だけど、このタイミングで彼が死んだら、間違いなくルーデュニア聖王国が疑われるだろうし。

今回の僕達の目的は、あくまで偵察。

敵の内情を把握して、無事に自国まで戻り伝えること。

それ以外に、余計なことをするつもりはない。

…でも、そうだね。

「この目で見てみないことには、分からないから…」

もし、その場で殺してしまった方が良い…と判断するような出来事があれば。

そのときは、その場ですぐに殺すよ。

そうなったときの為にも、準備は必要だ。

「殺した方が良いなら殺すし、そうじゃなかったら偵察だけして帰るよ」

「…随分と肝が据わってるね」

そうかな。

元暗殺者にとしては、当然の覚悟だけど。

「『アメノミコト』だっけ…。君達がいた組織」

「そうだよ」
 
「その歳で、こうやってシルナ・エインリーやルーデュニア聖王国の為に働くのは、彼らに命令されたから?」

まさか。

「誰の命令も受けてないよ、僕達は」

…今は、ね。

これらはあくまで、僕達が自主的に考えて行動した結果だ。
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