神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
これじゃあ、いくらルーデュニア聖王国が無実を訴えたとしても。

アーリヤット皇国の人々は、まるで聞く耳を持たないだろうね。

一国の政府が、こんな風に他国への憎悪を煽るようなニュースを報道するのは良くないと思うけど。

まぁ、しょうがないね。

対抗している国同士なのだから、互いを罵るのは当然のことだ。

かく言うジャマ王国だって、他国をクソミソに貶すような報道しかしてなかったし。

そう。ジャマ王国。

「…今のところ、ジャマ王国に関する記事は載ってないね」

「そーだね。…ホッとしたような、それはそれで不安なような…」

何か関係してるんじゃないかって、僕達はずっと疑ってたもんね。

同じくルーデュニア聖王国を憎む国同士、アーリヤット皇国とジャマ王国が手を組むんじゃないかって…。

今のところ、そういった内容の記事は見つけられない。

新聞を隅々まで読んでも、「ジャマ王国」の名前は一つも出てこない。
 
『八千歳』の言う通り、安心したような、逆に不安を煽られるような…。

本当は裏で手を組んでるけど、一般に報道してないだけかもしれないし。

こればかりは、皇王本人に聞いてみないと分からないね。

聞いても答えてはくれないだろうけど。

「見たところ、この皇王本人も、アーリヤット皇国の国民も、結構プライド高そーだからね」

「うん」

「薄暗い暗殺国家(笑)のジャマ王国とは、頼まれても手を組むつもりはないんじゃない?」

…そうだったら良いね。

何なら、ジャマ王国側もプライドの塊だからね。

プライドの高い者同士、お互いを毛嫌いしてくれることを祈ってるよ。

「まぁ、確かなことは言えないけどねー。ルーデュニアを攻撃する為に、プライドは二の次にするかもしれないし…」

「そうだね。それは分からない…けど」

「けど?」

「どうやら、ルーデュニア聖王国も言われっぱなし、やられっぱなしにはなってないみたいだよ」

「…どーいうこと?」

「見て、これ」

僕は、手元の新聞…『アーリヤット全国通信』に掲載された、小さな記事を指差した。

あんまり小さくて、うっかり見過ごしてしまいそうになった。

「これ、今日の記事。…ルーデュニア聖王国のフユリ女王が、ルーデュニア聖王国に帰国したって」

「うわっ、本当だ…。…記事ちっちゃ…」

「…」

ナツキ皇王の帰国は、第一面で写真付きなのにね。

フユリ女王の帰国は、紙の隙間を埋めるような小さな記事だった。

それだけ、アーリヤット国民にとっては、どうでも良いニュースなんだろうけど。

遠路遥々、敵国に忍び込んだ僕達にとっては…朗報以外の何物でもないよ。

あの人、帰ってこられたんだね。良かった。
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