神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
終わっちゃったんだもんな、サミット。

今更フユリ様が帰ってきて、ルーデュニア聖王国は無実ですと訴えても。

耳を貸してくれる人がいるだろうか。…肝心なときに、自分の国に居なかった女王の言葉に。

全部ナツキ様と、それから協力したミナミノ共和国のせいなんだけどな…。

折角無事に帰ってこられたのに、フユリ様にとってはしばらくの間、前途多難だな。

「…って、僕達も他人事みたいに言ってられませんよ」

俺の心を読んだナジュが、そう言った。

…全くだよ。

差し当たって、一番の悩みの種は…。

「…令月とすぐりだな」

「それと、マシュリさんですよね」

あいつらの無事に確かめるまでは、俺は安心して眠れないぞ。

何処に行ってしまったのか、今のところ何の音沙汰もない。

「いつ帰ってきても結構ですよ。…既にファラリスの雄牛の準備は出来ていますから」

ギロッ、と鋭い眼光を光らせるイレースであった。

「ひぇっ…」

誰よりもシルナがびびっている。

「は、早く戻ってこないと…本当に拷問器具にかけられちゃうよ…」

何なら、天音もちょっとびびっている。

ついでに、俺もびびってるからな。

おい。あいつらこのままだと、本当にイレースの手で拷問にかけられるぞ。

イレースに処されないうちに、早く帰ってきた方が良い…と。

本人達に伝えたいところだが、その術もなく。

あーあ。もうどうなっても知らんからな、俺。

「今、エリュティアが探してくれてるから。そろそろ…」

と、俺が言い掛けたそのとき。

「失礼します。学院長先生」

「あっ、エリュティア君!」

噂をすれば何とやら。

三人のお尋ね者の行方を探してくれていたエリュティアが、学院長室にやって来た。

「…悪いな、エリュティア…」

思わず、俺はエリュティアに謝っていた。

「え?何が?」

「いや、毎度毎度、捜し物と言えばお前を頼って…」

お前の探索魔法は、こんなことの為に使う魔法じゃないだろうに。

「そんな…。これが僕の特技だし、自分の得意なことで誰かに頼られるのは、素直に嬉しいよ」

エリュティアは、笑顔でそう答えた。

良い奴だよ、お前は。

「よく来たね、エリュティア君。さぁさぁ、美味しいアーモンドチョコがあるんだよ。今、ショコラオレンジラテを淹れてくるから、ちょっと待…、」

「あ、いや。あの…雑談じゃなくて、今日は報告に」

「…ふぇ?」

来客が来たら、まずはチョコでおもてなしせずにはいられないシルナ。

しかし、エリュティアに遮られてぽやんと首を傾げていた。

食べたくないってさ。エリュティアは。
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