神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そうじゃないかと思ってたんだよ。

多分、もう国内にはいないんじゃないかって。

令月とすぐりだけじゃなくて、マシュリまで一緒なんだもんな。

ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国のいざこざについては、令月達も俺らの話を盗み聞きして知ってるだろうし。

マシュリもマシュリで…人質の外交大使ってことにされなる、渦中の人間だし。

そんなあいつらが行く先と言ったら、アーリヤット皇国しかないよな…。

…うっすらと分かってはいたが、認めたくなくて目を逸らしていた。

でも、こうしてエリュティアから確証が得られた今。

いつまでも目を逸らしている訳にはいかないな。

「相変わらず、僕の探索魔法ではマシュリさんの居所は探れないんだけど…。王都セレーナの港町で、令月さんとすぐりさん、二人の僅かな『痕跡』が見つかった」

と、エリュティアは説明してくれた。

港町だってよ。

そんなところに行ってたのか。

「その後の足取りは…これも『痕跡』があまりに微弱で、なかなか確証が得られなかったんだけど…」

無理もない。

あの二人の元暗殺者は、俺達より遥かに『痕跡』を消すのが上手いからな。

さぞや、捜索にも苦労したことだろう。

付き合わせてしまって、本当申し訳ない。

「アーリヤット皇国行きの輸出船の中から、二人の『痕跡』が見つかった」

輸出船だってよ。

…ここまで来たら、もう疑いようがないな。

「目撃情報も残ってないから、誰も姿を見た訳じゃないけど…」

「人に姿を晒すような奴らじゃないからな…」

「でも…船の中から『痕跡』が見つかった以上、間違いないと思う」

「…だな」

調査、報告ありがとう。

お前のお陰で、確信が持てたよ。

もう間違いない。あいつら本当に…アーリヤット皇国に行ったのだ。

「あの…馬鹿共っ…!」

俺は、思わず毒づかずにはいられなかった。

あいつらと来たら、少しくらい石橋を叩いて渡るということをしないのか。

石橋どころか、ボロッボロの縄梯子でさえ猛ダッシュで駆け抜けそう。

命知らずにも程がある。

絶賛喧嘩中状態のアーリヤット皇国に、仮にもルーデュニア聖王国の民となったあいつらが、自ら乗り込んでいくなんて。

万が一…万が一ナツキ様に見つかったら、一体どうするつもりなんだ?
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