神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺は、既に心配しかしていないが。

「いやー…。見つかる心配はしなくて良いと思いますけど」

ナジュは呑気な顔して、そう言った。

「何でだよ?見つかったら即処刑…でもおかしくないんだぞ」

令月もすぐりも、ナツキ様の嫌いな魔導師だ。

しかも、憎きルーデュニア聖王国の魔導師なんだぞ。

それだけで、ナツキ様に目の敵にされるのは間違いない。

マシュリだって、ナツキ様にとっては、ルーデュニア聖王国に寝返った裏切り者なのだ。

「見つかったら、の話でしょう?見つかりませんよ、あの人達は」

「はぁ?何でそう言えるんだ?」

「忘れました?あの人達は、探索魔法のプロが三日三晩探し回って、ようやく行方が分かる…ほどに、『痕跡』を消すのが上手いんですよ」

「…」

…そう言われれば、そうだな。

「アーリヤット皇国に、エリュティアさんほどの探索魔導師がいるとは思えませんし…」
 
「ふん。我々の手をこれほど煩わせる連中が、アーリヤット皇王ごときに見つかるはずがありません」

ナジュに加え、イレースも吐き捨てるように言った。

…うん。

なんか、俄然あいつらが捕まりそうな気がしなくなってきた。

むしろ、心配なのはナツキ様の方だな。

令月とすぐりに狙われた「ターゲット」が、生きて陽の目を見られるとは思えない。

「それより気になるのは、奴らがアーリヤット皇国に忍び込んだ理由です」

と、イレース。

令月達が、危険を冒してアーリヤット皇国に忍び込んだ理由?

…それは…。

「元暗殺者だけあって、僕と違って思考が短絡的な二人ですからね。手っ取り早くアーリヤット皇王を暗殺しよう、とか思ってるかも」

すぐに自分の身体を肉の盾にする奴の思考も、充分短絡的だよ。

…というツッコミは、今は脇に置いておくとして。

アーリヤット皇王…ナツキ様の暗殺、だと?

「…やりかねん…。やりかねんぞ、あいつらなら…」

「マシュリさんを連れて行ったのは…道案内の為かな?」

と、天音が不安そうな顔で尋ねた。

「…多分な…」

マシュリはマシュリで、律儀で真面目な性格だからな。

現在、ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国が揉めているのは自分のせい、と己を責め。

令月達の計画に乗っかって、アーリヤット皇国への道案内を買って出た…と、考えるのが自然だろう。

本当馬鹿。

…言うまでもないが、今ナツキ様が暗殺されたら、俺達は大変困る。

ルーデュニア聖王国とアーリヤット皇国は、こんなに拗れた関係になっているのに。

今ナツキ様が暗殺された、なんてニュースが世界中に知られたら…。

そんなの、ルーデュニア聖王国が疑われるに決まってるじゃないか。

結果、フユリ様は「兄殺し」の汚名を着せられ。

今度はアーリヤット皇国だけではなく、世界中の全ての国から、総スカンを食らう羽目になるかもしれない。

そこのところ、あいつらは理解しているのだろうか?
< 362 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop