神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
見張りの目を避けつつ、僕達は皇宮の中を探索していった。

「この先が、皇王の寝室…なんだけど」

「…けど?」

マシュリは足を止めて、くるりと振り向いた。

「この部屋からは皇王の匂いがしないし、音も聞こえない。まだ寝室に戻ってきてないみたいだね」

五感が優れてるって、やっぱり便利だね。

部屋の中を確認しなくても、そこに誰もいないのが分かるんだ。

船の中では気の毒だと思ってたけど、こういうときは百人力だね。

もう深夜と言って良い時間なのに、まだ寝室には戻っていない…。

随分夜更しさんなんだね。

「じゃあ…王の間ってところ?」

「多分。…行ってみよう」

「やれやれ」

これだけ広い宮殿なんだから、何処にいてもおかしくないよね。

ましてや僕達、ナツキ皇王の顔は写真でしか見たことない訳で。

道案内がいてくれるって、便利。

自分達で探す手間が省けたよ。

マシュリの案内で、あっという間に王の間とやらに到着。

とはいえ、勿論正面突破は出来ないので。

僕達はこっそり、王の間の天井裏に侵入した。

こういうことは、僕達の得意分野だよね。

天井裏に忍び込み、こっそり錐で穴を開けて、僕と『八千歳』は王の間を見下ろした。

すると、そこから話し声が聞こえてきた。

「…それで、フユリは今どうしてる?」

「昨日、ルーデュニア聖王国に帰国したそうです」

「そこまでは知ってる。その後のことだ」

「今のところは、まだ。しかし、全世界に対して…今回の騒動の釈明を行うつもりのようです」

…何だか、いかにも重要そうな会話をしているようだ。

ドンピシャって奴だね。

偉そうに金ピカの玉座に座って、側近らしき男と話している。

写真にあった顔と同じ…じゃあ、あれが皇王なんだ。

いかにも悪いことしなさそうな、好青年のように見えるけど。

あの人が、ルーデュニア聖王国を危機に陥れた張本人。 

本当に悪いことする人っていうのは、いかにも悪いことしなさそうな顔してるもんだよ。

人の裏の顔は、見た目だけじゃ分からないってね。

案の定。

「ふん。釈明だって?…何をどう釈明するって言うんだ」

ナツキ皇王は、小馬鹿にしたように鼻で笑った。

自分の妹を陥れて、この発言だからね。

やっぱり、悪いことしなさそうな見た目なんて、全然当てにならないね。
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