神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
成程、突然ナツキ皇王が、今回の計画を実行に移したのはこれが理由だったか。

ヴァルシーナの助言と協力があったから。

この女と組んで、悪事を働いたらしい。

「ほんっと…諦めの悪い女だよ」

「…全くだね」

そんなに学院長が憎いなら、回りくどく他人を巻き込んだりしないで。

潔く、直接学院長と戦えば良いものを。
 
それはしないんだろうね。だって勝てないから。

直接戦って勝てないから、こんな風に他国を巻き込んで、回りくどく学院長を締め上げる罠を巡らせてるんだろう。

小娘の策謀だよ。

「…どうやら、君達にも因縁のある相手のようだね」

と、僕達の反応を見たマシュリが言った。

その通りだよ。

「むしろ、因縁しかない相手だね。…話すと長くなるけど」

「そう。じゃあ、後で聞くよ」

分かった。じゃあ、後で話すよ。

…さて、どうしたものかな。

「今頃ルーデュニア聖王国では、フユリ・スイレンと…そして、シルナ・エインリーが…この苦境を引っくり返す為の策謀を考えている頃だろう」

そう言うヴァルシーナの顔は、ここからでもよく分かるほど、不機嫌そうなしかめっ面だった。

だろうね。

今まで君、何度も色んな計画を立てて、色んな策を練って。

その度、学院長に手痛いしっぺ返しを食らってきたもんね。説得力が違う。

負け犬の顔がよく似合うよ。

「あいつらに何が出来るんだ?全世界からそっぽを向かれている状況で?」

「どのような状況でも、奴にとっては苦境でも何でもない。これまでルーデュニア聖王国が戦果に巻き込まれることなく平穏であれたのは誰の功績か、よく考えてみろ」

それは学院長のお陰だろうね。

ルーデュニア聖王国が危機に陥る度、学院長がその窮地を救ってきた。

全ては、学院長の大切なものを守る為に。

「フユリ・スイレンなど大した脅威ではない。所詮は小娘だ」

フユリ女王が小娘だと言うなら、学院長にとっては、君も充分小娘だと思うけど。

「本当の脅威は、シルナ・エインリーだ。だからこそ、先に奴を潰しておきたかったのに…」

あぁ。それで先に、ルディシアとマシュリを送ってきたんだね。 

おかしいと思ってたんだよ。

何で、フユリ女王を憎んでいるはずの皇王が、まずいの一番に学院長を暗殺しに来たのか。

全部、ヴァルシーナの入れ知恵だったんだ。

先に学院長を潰せ、って。

まぁ、見事に失敗に終わってるけど。

「結局、またいつもの手口で丸め込み、みすみすあの男の戦力を増やすことに…」

本当に、説得力が違うね。

実際、今、僕達がナツキ皇王やヴァルシーナの頭の上にいるのも、マシュリの手引きだし。

面白いほどヴァルシーナの計画が大失敗続きで、ちょっと可哀想になってきたよ。
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