神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
しかし。

「…ふん」

必死に学院長の危険性を主張するヴァルシーナを、ナツキ皇王は鼻で笑っていた。

余裕だね。

「必死だな。国を、故郷を追われた者は」

「…何だと…?」
 
…どうやら。

ヴァルシーナとナツキ皇王は協力関係にあるようだが、仲良しという訳ではなさそうだね。

両者共に、プライドの塊だもんね。

そりゃ仲良くは出来ないだろう。

僕達としては有り難いよ。

何なら、このまま仲が悪過ぎて決別してくれたら、もっと有り難い。

さすがに、それは高望みだけど。

「お前の協力には感謝している。情報提供にもな」

と、ナツキ皇王。

情報提供って、今度はどんな情報を提供したんだろう。

ヴァルシーナとて腐っても、元イーニシュフェルトの里の賢者。

学院長ほどじゃないにしても、重要なことをたくさん知っていそうだね。

「だが、やり方は俺に任せると言ったな?」

「…だからどうした?」

「お前の役目は、俺に判断材料を与えることだ。余計な口出しは必要ない」

…ふーん。

つまりナツキ皇王にとっては、ヴァルシーナも道具の一つなんだね。

あくまで、利用価値があるから手元に置いてるだけで。

別に、ヴァルシーナを信用しているから傍に置いている訳じゃない。

「シルナ・エインリーが脅威…それは分かった。実際そうなんだろう。ルーデュニア聖王国はもとより、フユリ一人には手に余るのだから」

自分だったら手に余らない、とでも言いたいのだろうか。

フユリで手に余るなら、君ごときじゃとても、ルーデュニアを統治出来ないと思うけど。

その自信は何処から?

「だが…。それなら、相手にしなければ良い。戦って勝てないなら、戦わなければ良いだけの話だ」

そう言って、ナツキ皇王はワイングラスの中身を呷った。

…ふーん?

悪いことを考えるだけあって、結構頭は良いんだね。

ずる賢い、という意味でね。

「やり方は俺に任せてもらうぞ。…もとよりそういう約束だ。文句はないな?」

「…勝手にしろ」

ヴァルシーナは吐き捨てるようにそう言って、踵を返した。

「…貴様ごときに、シルナ・エインリーが御しきれるとは思えないがな」

という、苦し紛れの捨て台詞を残して。

ヴァルシーナは、イライラした様子で王の間から出ていった。

…勝ち負けとしては、ナツキ皇王の方に軍配を上がったようだね。

「…ふん。生意気な女め」

そんなヴァルシーナの背中を見つめて、ナツキ皇王がぼそっと呟いていた。

僕達も同感だよ。
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