神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…何と言ったら良いものか。

下手な慰めは、むしろフユリ様を傷つけかねない。 

「…心中、お察し致します」

…そうとでも言うしかないよな。他に何て慰めたら良いのか分からない。

こんなの、慰めのうちに入らないけど…。

「ありがとうございます。…私が不在の間、シルナ学院長もルーデュニア聖王国の潔白を証明しようと、手を尽くしてくれたそうですね」

え。

「シュニィ副団長から、そう聞きました」

「そんな…。私は大したことはしていませんよ」

「いいえ、助かりました。本当にありがとう」

またしても、ぺこりと頭を下げるフユリ様。

腰が低いよ。女王様なのに。

「本来なら…私が背負うべき役目だったのに」

「フユリ様…。出過ぎたことかもしれませんが、あまり一人で背負われないでください。もっと周囲の人間に頼って良いんですよ」

と、シルナは微笑んだ。

「あなたの周りには、あなたを支えようとする者が大勢います。…勿論、私もその一人ですよ」

…ついでに、俺もその一人であるつもりだ。

俺の力なんて、なくても変わらないくらい微々たるものだけどな。

「今回は特に…ナツキ様…兄王様に人質の言いがかりをつけられている、ルディシア君やマシュリ君のことは…私にも関係がありますから」

大いに関係あるな。

あの二人をルーデュニア聖王国で匿って欲しいと、頼んだのは俺達なのだから。

その選択については、全く後悔していない。

しかし、そのせいでフユリ様が、謂れなき汚名を着せられ。

ひいてはルーデュニア聖王国の威信に傷をつけてしまったことは、素直に申し訳ないと思っている。

「彼らは既に、立派なルーデュニア聖王国の民です。決して人質などではありません」

フユリ様は、きっぱりとそう言った。

…良かった。

兄を黙らせる為に、二人をアーリヤット皇国に送り返すつもりだ、と言われなかった。

大丈夫だろうとは思ってたけど、万が一そう言われたら…フユリ様と衝突する羽目になるところだった。

「…私の兄が、私やルーデュニア聖王国を陥れる為に一連の騒動を起こした。…これは、最早疑いようもありません」

「…そう、ですね」

残念だけど、認めざるを得ないだろうな。

「ですが…私は兄の思うまま、ルーデュニア聖王国の名誉を傷つけさせるつもりはありません」

「…では、どうしましょう?」

この不利な局面を脱する為に、フユリ様はどうしようとしているのか。

言われっぱなしになるつもりはない、って言うなら…。

「私は、兄と直接会って話がしたいと思っています」

…相変わらず、フユリ様は堂々とした、威厳のある態度でそう言った。

それは…ちょっと予想外だった。
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