神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
何を言い出すかと思ったら…それはまた大胆な。

その真剣な目を見たら、冗談を言っている訳じゃないのは確かだ。

じゃ、本気で言ってるんだな。

本気で…ナツキ様と直談判しようと。

…まぁ、それが一番手っ取り早くはある。

喧嘩しているのは、この兄妹なのだから。

兄妹同士で話し合って和解してくれるなら、それに越したことはない。

…和解してくれるなら、な。

「これ以上、無関係の国民を巻き込む訳にはいきません。何としても兄を止めなくては」

「それは…分かります。お二人が話し合うことで、この状況を打開出来るのであれば…。…しかし…」

いつもは楽観的なシルナだが、このときばかりは言葉を濁した。

…無理もない。

そりゃそう出来たら良いけど、さすがに無理があるぞ。

「…失礼を承知で申し上げますが、兄王様がフユリ様との話し合いに、応じてくださるとは思えません」

シルナは、はっきりとフユリ様にそう言った。

…うん。俺もそう思う。

話し合いを持ち掛けて、素直に応じてくれる人なんだったら、こんなに苦労してねーよって。

ましてやナツキ様は、フユリ様を毛嫌いしている訳で。

嫌ってる相手に「話し合おう」と言われたって、まぁ応じないわな。

良くて無視、悪くて逆ギレが良いところだろう。

逆ギレされたくないなら、下手なことは言わない方が良い。

「全面的に降伏しますから、お願いだから会ってください」と土下座でもすれば、ワンチャン会ってくれるかもしれない。

土下座前提だけどな。

「…分かっています。でも、国の代表として話し合いの場を設けるよう請願するんです。まるっきり無視はしないでしょう」

「…そう願いたいものですが」

「一度では諦めません。兄が応じてくれるまで、何度でも申し込むつもりです」

…それで応じてくれれば良いがな。

正直、望み薄だと思う。ここまで拗れたら。

「せめて、ナツキ様のお考えがもう少し…分かれば良いんですが…」

「…恐らく…兄は例の条約を各国に結ばせることで、親魔導師国家諸国を…そして、ルーデュニア聖王国を無能にしたいのでしょう」

…そうだろうな。

ナツキ様にとっては、自分の生まれ故郷だろうと関係ない。

ルーデュニア聖王国を、フユリ様を貶め、自分を王者に選ばなかった全ての人間に復讐する。

それが目的なんだろうとは思う。

だが…その為の具体的な方法だとか、恐らくまだ隠しているであろうナツキ様の切り札とか…。

そういう、ナツキ様の腹のうちを知ることが出来たら、もう少し楽になるんだけどな。

それこそ、会って話が出来たら分かるのかもしれない。

でも、会ってくれなきゃ永遠に分からない。

結果ルーデュニア聖王国は、常に後手後手に回る羽目になり…。

ナツキ様の思う壺、になってしまう訳だ。

…それだけは防ぎたいな。
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