神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
現状、何もかも全部ナツキ様の思惑通り。

言い方は悪いけど、言われっぱなしのやられっぱなしだから。

ここいらで、何とか反撃に出たいところだ。

「私は、アーリヤット皇国が『外交大使』を送ってきたという話、その大使を私達が人質に取ったという話…。これらは全て兄の誤解であって、真実ではないこと…」

フユリ様は厳しい顔をして、そう言った。

「そして、兄が諸外国に締結を迫っている、世界魔導師保護条約…。魔導師の人権を無視した非道な条約であると、改めて国内外に向けて宣言するつもりです」

…ようやく、表立って反撃に出ると。

果たして、その反撃は間に合うだろうか?

「同時に、これらの誤解を解く為に、兄に話し合いの場を設けることを提案します。…応じてくれるかどうかは、別の話ですが」

「…そうですね」

「…ひいては、シルナ学院長にお願いしたいことがあります」

改まった口調で、フユリ様はシルナに向き合った。

その真摯な眼差しを見れば分かる。

フユリ様が、シルナを深く信頼しているのだということが。

…まぁ、そうだよな。

信じてなかったら、こんなところに呼ぶ訳がない。

「私はルーデュニア聖王国の女王として、この度の祖国の危機を何としても救うつもりです。魔導師の方々も…決して国の所有物にはさせません」

毅然としたその言葉に、俺は心の中でホッと胸を撫で下ろした。

フユリ様が折れて、あの魔導師保護条約にルーデュニア聖王国も批准する…なんて言い出したら。

俺は荷物をまとめて、この国を出ていかなきゃならなくなるところだった。

俺だけじゃない。

俺の仲間達…聖魔騎士団魔導部隊の魔導師達だって、今の居場所を奪われることになるのだ。

そうしたら、また皆ばらばらになってしまうかもしれない。

折角集まった仲間達と離れ離れになるなんて、そんなの御免だ。

でも、フユリ様には、例の条約に批准するつもりは全くないようだった。

良かった。

「兄を止めてみせます。もとはと言えば、私と兄の仲違いのせいでこうなっているのですから」

「フユリ様…」

「…皆さんには、巻き込んで済まないと思っています」

…もう、それは言うなよ。

言っても仕方ないんだから。

フユリ様が悪い訳じゃない。それだけは確かだ。

「私は話し合いによって和解したいと思っています。でも…兄が話し合いに応じず、これ以上強引な手段に出たら…」

「…出たら、どうしますか?」

「…最悪、両国の間で国を割るほどの争いが起きる可能性もあります」

…それはつまり、戦争になるってことか?

そうなったときのことは…出来れば、考えたくないな。
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