神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…フユリ様との謁見を終えて、イーニシュフェルト魔導学院に帰ってから。

「ふーん。平和主義って言うか、考えが甘いって言うか…。お子ちゃまな女王様ですね。そんなんで大丈夫ですか?」

「同感です。好き勝手な言いがかりをつけてくる輩は、鉄拳制裁で黙らせるくらいが丁度良いんです」

俺とシルナから、フユリ様との話し合いの内容を聞いて。

ナジュとイレースは、そんな反応だった。

…過激派だな、お前ら。

「そ、そんな言い方…。話し合って解決出来るなら、それに越したことはないよ。仲直りしてくれれば誰も傷つかないし、血が流れることもないんだよ」

一方天音は、相変わらず穏健的な発言。

誰もが天音みたいな考え方をしてくれれば、世界はもっと平和だったろうに。

「反魔導師派と親魔導師派の論争っていうのは、永遠に和解なんて出来ませんよ。互いに殴り合ってどちらかが勝つまで、絶対に終わりません」

「…ナジュ…」

…お前はそう思うよな。当然。
 
そういう国から来たんだから。

ナジュ自身、魔導師と非魔導師間の戦争に巻き込まれて…。

…随分長い間、辛い思いをしてきた。

その経験があるから、とてもじゃないけど事態を楽観視出来ない。

「でも、ナジュ君。今回のナツキ様は別に…魔導師が嫌いな訳じゃないんだよ。ただフユリ様を目の敵にしてるだけで…」

と、天音。

そこは複雑なところだよな。

ナツキ様は何も、魔導師を全員滅ぼしてしまえ、とは言ってない。

条約だって、あくまで魔導師「保護」条約だと言い張ってる訳で。

魔導師を国家の所有物にしようと提案しているが、魔導師を殺そうとはしてない。

これ以上事態が拗れて、フユリ様の危惧しているように…本当に戦争にまで発展しそうになったら。

戦いたくないばかりに、条約に賛成する魔導師も出てくるだろう。
  
そして、それ以前に。

天音の言う通り、今回の騒動はあくまで、ナツキ様の復讐心が発端。

魔導師保護条約云々は、ルーデュニア聖王国を追い詰める為の手段でしかない。

なら、フユリ様とナツキ様が仲直りをしてくれたら。

ナツキ様が復讐する理由をなくしてくれれば、それだけでナツキ様は、条約の草案を引っ込めてくれるのでは?

そうしてくれれば良いんだがな。切実に。

「ナツキ様が話し合いに応じてくれたら、何とか…」

「…応じるはずがないでしょう。馬鹿馬鹿しい。一笑に付されておしまいです」

イレース、一刀両断。

お前…俺も無理だろうとは思うけど、せめてもうちょっとオブラートに包もうぜ。

「イレース…お前は怖くないのか?もし、このままアーリヤット皇国と戦争…なんてことになったら…」

「矛を向けてくるなら戦う。そうでないなら放置する。それだけです」

…逞し過ぎるな。

俺もお前みたいに、潔く考えることが出来たら良いんだけどな。

甘ちゃんな俺には、なかなかそこまで割り切って考えられないよ。
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