神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
エリュティアから、アーリヤット皇国行きの船の中に三人の「痕跡」を見つけたと言われた。

だから多分、三人共アーリヤット皇国にいるんだろうけど。

何をしに遥々、アーリヤット皇国まで行ったのか。

いつになったら帰ってくるのか。

そもそも、ちゃんと無事に帰ってくるのか?

考えれば考えるほどに、心配が尽きない。

「戦争になるくらいなら、いっそアーリヤット皇王を暗殺してもらった方が、話が早いかもしれませんね」

などと、イレースは恐ろしいことを言う始末。

それは最後の最後の手段だよ。

「あいつらが、そんな危険な真似を犯すくらいなら…暗殺なんてしなくて良いから、早く帰ってきて欲しいよ…」

どうするんだ?令月達がナツキ様に捕まったら。

ルーデュニア聖王国に対する、人質として使われたら。

まともに戦争も出来ないな。あいつらの命を盾にされたら、俺達は全面降伏するしかない。

「あいつらが何考えてるのか、ナツキ様が何考えてるのか…。…俺にはさっぱり分からないよ」

「あー、なんかね。ヴァルシーナが一枚噛んでるらしいよ」

何だと?

ヴァルシーナ?

「ヴァルシーナだと…?何であの女の名前が出てくるんだ?」

「居たんだよ、アーリヤット皇国の皇宮に。ナツキ皇王と喋ってた」

…マジで?

「ヴァルシーナが…ナツキ様と手を組んでる…?」

…考えてもみなかった。

賢者の石の件で、ちらっと会ったのが最後。

近頃は大人しくしていると思ってたら。

まさか、今度はアーリヤット皇国に行ってたのか。

「…!待てよ、じゃあルディシアとマシュリが、最初にシルナを狙ってきたのも…」

「うん。ヴァルシーナの入れ知恵だったみたい」

…そういうことだったのか。

憎んでるのはフユリ様なのに、何故先にシルナを狙ったのかと疑問に思っていたが…。

ヴァルシーナの入れ知恵だと思えば、それも納得出来る。

先にシルナをどうにかすれば、圧倒的に与し易くなると踏んだのだろう。

思惑が外れて、残念だったな。

「少し前に、あの女が突然ナツキ皇王の前に現れて…。今回のサミットでの騒動も、恐らくあのヴァルシーナって女と協力して起こしたものなんだと思う」

と、マシュリが言った。

「前から…?あいつ、そんなに以前からアーリヤット皇国に渡ってたのか…」

「相変わらず節操のない人ですね。ジャマ王国に手を貸してたかと思ったら、今度はアーリヤット皇国とは…」

ナジュはそう言って、やれやれとばかりに溜め息を溢した。

全くだ。

あの女は、自分の復讐に他所の国を巻き込まないと気が済まないのか?
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