神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「ヴァルシーナも、自分一人の力で学院長を倒せるのなら、そうしたいんだろうと思いますよ。でも自分一人じゃ無理だから、国の力を借りようとしてるんでしょう」

「…いい加減諦めて欲しいんだがな。巻き込まれる国にとっては、迷惑以外の何物でもない」

令月とすぐりがさっき言ったことが、本当なら。

ヴァルシーナも関わっているなら、騒動の発端はフユリ様とナツキ様の兄妹喧嘩…ってだけじゃない。

シルナとヴァルシーナの因縁も、騒動に関わってることになる。

そんなのってあるか?

国と国との戦争にまで発展するかもしれない、って怯えてるのに。

その根底にあるのが、兄妹喧嘩と、同郷同士の喧嘩とは。

巻き込まれる国民に、あまりに申し訳ない。

「…ヴァルシーナちゃんが、アーリヤット皇国に…」

シルナは戸惑ったような表情で、考え込んでしまった。

…シルナにとっては、聞きたくなかった事実だろうな。

ヴァルシーナのことだから、いずれまた、諦めずに何か仕掛けてくるとおもっていたが…。

まさか、こんな形で攻めてくるとはな。

あの女、復讐の為に形振り構わないのは相変わらずだが。

自分が誰に手を貸してるか分かってるのか?

ナツキ様に手を貸して、本当に魔導師保護条約なんてものが締結されたら。

自分だって、ナツキ様に所有される魔導師の道具になるんだぞ。

それとも、シルナに復讐出来るなら、道具でも構わないか?

…本当、食えない女だ。

「ヴァルシーナとナツキ様が手を組んでるなら、俺達の予想以上に、今回の件は根が深いぞ」

シルナほどじゃないにしても、ヴァルシーナだってイーニシュフェルトの里の出身。

俺達には思いもよらない、イーニシュフェルトの里に伝わる秘術や魔法を使ってくるかもしれない。

ナジュの読心魔法対策と言い…。ヴァルシーナの余計な入れ知恵のせいで、手を煩わされる羽目になりそうだ。

しかし。

「それはどうかな。協力してるとは言っても、仲が良い訳じゃなさそうだったから」

と、令月が言った。

「どういうことだ?」

「ヴァルシーナはあくまで、必要な情報をナツキに教えてるだけみたい」

「必要以上に馴れ合ってる感じでもなかったしねー。人望ないよねー」

人望がない…ね。

それはナツキ様のことか?それともヴァルシーナ?

どちらもであることを祈ってるよ。

「そうか…。しかし、そうなると…ナツキ様がえらく大胆に今回の騒動を起こした理由が分かったな」

「うん…。ヴァルシーナちゃんの情報提供…ナツキ様にとっては、かなり有益だっただろうから」

ヴァルシーナは、良くも悪くも俺達の手のうちをよく知っているからな。

それらの情報をナツキ様に流していた。そのお陰でナツキ様は、これほど大胆に動けるのだ。

…『アメノミコト』のときも思ったが、厄介な奴らが手を組んだものだ。

だが…そうと分かれば、こちらも対策のしようはある。
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