神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…こいつら。

…いつの間に?

「…お前ら、いつ帰ってきたんだ?」

「え?さっき」

…あ、そう。

あまりにも自然に、しれっと会話に参加するもんだから、色々忘れかけてたよ。

ナツキ様のもとにヴァルシーナがいる。この情報を仕入れることが出来たのは大きい。

…大きいんだけども。

「…とりあえず、お前ら。そこに直れ」

「え?」

え?じゃないんだよ。

それとこれとは話が別だからな。

「イレース、ファラリスの準備を」

「既にしてます」

イレースは、ぴっかぴかに磨かれたファラリスの雄牛を台座に乗せて、ガラガラと運んできていた。

さすが。準備が良い。

じゃ、やるか。

「あ、あわわわわ…。さ、三人共拷問されちゃう…」

シルナは横でぶるぶるしていた。知らん。

今回ばかりは、いい加減俺の堪忍袋の緒が切れたからな。

「処刑の前に…一応、釈明くらいは聞いてやろう」

俺にも一応、慈悲の欠片くらいはある。

聞いてやろうじゃないか。言い訳を。

「お前ら、何処に行ってた?」

「アーリヤット皇国」

いけしゃあしゃあと。

やっぱり行ってたんだな。エリュティアの言った通りだ。

「何しに行ってた?」

「敵情視察」

敵情視察…。

「つまり、ナツキ様に会ってきたんだな?」

「会ってはないよ。面拝んできただけ」

そうかよ。

「あんまり似てなかったね。あの兄妹」

顔の感想はどうでも良いんだよ。

「そしたら、ヴァルシーナを見つけたんだ」

「あれは驚いたよねー」

俺も驚いたよ。

お前達が、当たり前のようにアーリヤット皇国に行って、当たり前のように帰ってきたことにな。

「だいじょーぶだよ。絶対姿は見られてないって断言出来るから」

と、言い切るすぐり。

…その心配はしてないよ。姿を隠しての隠密行動において、お前らの右に出る者はいないだろう。

当然ナツキ様は、令月達の潜入にも気づいてないはずだ。

こうして無事に帰ってきたというのが、何よりの証拠。

…だけどな。

バレなきゃ良いって、そういう問題じゃないから。
< 386 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop