神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
令月とすぐりだけじゃないぞ。

「お前、マシュリ。お前も座れ」 

「え?犬じゃないんだから、猫はお座りしないよ」

良いから座れ。正座しろ、正座。

犬だろうが猫だろうがケルベロスだろうが、関係ない。

罪の重さは同じだぞ。

「お前は何しに行ってた?」

「そこの二人がアーリヤット皇国に行くって聞きつけたから、道案内に」

やっぱりそうだったのか。

自らを犠牲にする覚悟でアーリヤット皇国に帰って、二度と戻ってこないんじゃないかって心配だったんだぞ。

ちゃんと無事に帰ってきたから、そこだけは褒めてやろう。

「…だが、それとこれとは話が別だからな。散々心配かけやがって」

「…心配?してたの?」

してないとでも思ってたのか?

「してたに決まってるだろ。エリュティアに頭下げて、探し回ってもらって。無事に帰ってきたから良いものの、万が一ナツキ様に捕まったらどうするつもりだったんだ?」

「…捕まるつもりはなかったから…」

そうかよ。そりゃ大層な自信だな。

だが、心配かけた事実は変わらないからな。

「良いか。金輪際、二度と、勝手に出ていくような真似はするなよ」

もう二度と、帰ってこないんじゃないかって心配するのは御免だからな。

生きた心地がしないんだよ。

「分かったか?」

「…努力はするけど…」

保証は出来ないってか?

そうは行かんぞ。

「い・い・な。約束しろ。破ったら…向こう半年くらい、お前の餌はブロンズ猫缶だけだ」

金の猫缶とかプラチナ猫缶とか、ましてや大好物のちゅちゅ〜るは、一生お預け。

マシュリには多分、この手の罰の方がよく効くだろう。

案の定、

「そ、そんな殺生な…!」

効いてる効いてる。

言っとくけど、脅しじゃないからな。今度脱走したら、マジでやるから。

お前がいなくなったら、俺達だけじゃなくて生徒も心配するんだよ。

毎回、お前がいなくなる度に生徒に言い訳するの、楽じゃないんだからな。

…さぁ、それはそれとして。

「…お前らもだぞ。大人しくしてろって何回も言ってるのに、いい加減…」

そう言って、今度は令月とすぐりに説教してやろうと思ったら。

「…あれ?」

ついさっきまで、確かにそこにいたはずなのに。

二人の姿は消え、開けっ放しの窓のカーテンが、はらはらと風に棚引いていた。

「…逃げたようですね、どうやら」

「…あいつら…」

説教される気配を感じ取って、いち早く逃げやがったな。

さすが元暗殺者。危機察知能力の高さは半端じゃない。

…折角用意したのに、結局、今回もファラリスの雄牛は使わずじまい。

「…ムカつくから、いっそシルナにファラリス仕掛けて妥協するか…?」

「奇遇ですね。私も今、同じことを考えていたところです」

イレースもこう言ってるし。

「ひぇっ…。羽久とイレースちゃんが、私に怖いこと言ってる!」

飛び上がったシルナが、びびってソファの影に隠れていた。

ちっ。
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