神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…結論から言うと。

令月とすぐり、それからマシュリのスパイ行為がバレていて、それを咎められた訳ではなかった。

そんなことは一言も書いていなかった。

どうやら、令月達のことがバレた訳じゃなさそうだ。

それは…ひとまず、安心した。

…したけども。

スパイがバレていたならどうしよう、というさっきまでの不安は解消された。

が、今度は別の不安が…大きな不安が生まれた。

…マジで?

「…本気なのか…?」

俺は再度、便箋に書かれた文章を読み。

更にもう一度読んで、一言一句、読み間違いがないことを確認した。

何度読んでも同じだ。

確かに、そう書いてある。

…ナツキ様御自ら、シルナと会って話したいと。

それが手紙の主な内容だった。

「フユリ様じゃなくて…シルナに、なんだよな?」

「…うん。そうみたいだね…」

「…」

…何で、シルナ?

ナツキ様に会いたがってるのはシルナじゃなくて、フユリ様なんだが?

ナツキ様がシルナに、一体何の用だ?

手紙には、ナツキ様が会いたがっている日付と場所も記載されていた。

日付は一週間後。場所は…ルーデュニア聖王国でも、アーリヤット皇国でもない。

ミナミノ共和国から更に西にある、ナンセイ民主共和国である。

「…言うまでもないと思うけど、これは多分罠だぞ」

「…うん、分かってる」

こんなの、有り得ない。

ここに罠を仕掛けてるから、引っ掛かりに来てくださいと言ってるようなものだ。

ナンセイ民主共和国は、魔導師排斥論が首長を務める、反魔導師国家である。

そしてミナミノ共和国と同じく、アーリヤット共栄圏の国だ。

つまり、アーリヤット皇国のお膝元。

そんなところに呼び出して、一体何の話があるというのだ。

罠に決まっている。

ミナミノ共和国に招待されたフユリ様は、サミット閉幕までずっと、ミナミノ共和国国内に軟禁されていた。
 
あれと同じだ。

今度はナンセイ民主共和国に罠を仕掛けて、シルナを誘き寄せて、罠に嵌めようとしている。

そうとしか考えられない。

「引っ掛かる馬鹿がいると思ってるのか…?」

フユリ様にそうしたように、今度はシルナを罠に嵌めようと?

フユリ様のときに成功したのは、あれが一度目だったからだぞ。

二度も同じ手は食わない。

さすがに学習するぞ。俺達だって。

罠を警戒するのは当然だろう。

ましてや、ナツキ様の傍らにはヴァルシーナがいるのだ。

間違いなく、あの女が結託しているのは疑いようもない。
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