神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

「い、言い分って…。そんな仁王立ちして聞かれても、上手く言えないんだけど…」

「良いから言え」

その手紙、破り捨てられないうちにな。

「えっと…。一言で言えば…ナツキ様が、そんな分かりやすい罠を仕掛けるとは思えないんだよ」

「…」

…何だと？

「羽久の言う通り、今回と似たような手口でフユリ様をミナミノ共和国に閉じ込めたでしょ？私達も当然、そのことは知ってる」

…そうだな。

「その上で、もう一度同じ手口を使うかな？罠を疑われることくらい、ナツキ様にも分かると思うけど…」

そう言われたら…確かに。

ナツキ様のずる賢さは、俺達もよーく知ってる。

あの策士なナツキ様が、二度も同じ手口を使うような愚を犯すだろうか？

こんな手紙を送っても、俺達が罠を疑うことくらい分かるはずだ。

ナツキ様にしては…考えが安直かもな。

「でも…ナツキ様の考えとは限らないだろ？向こうにはヴァルシーナもいる訳で…」

あいつの発案である可能性も充分ある。

しかし、シルナは。

「それなら、なおさらだよ。ヴァルシーナちゃんは馬鹿じゃない」

「あ、そうか…」

あいつもあいつで、かなりの策略家だもんな。

…まぁ、今のところヴァルシーナの策略は、失敗に終わってばかりなのだが。

「じゃあ…つまりシルナは、この誘いが罠じゃないって…。ナツキ様が本気でナンセイ民主共和国でシルナに会いたがってる、って思ってるのか？」

「…うん。そうかなって思って…」

「…」

理屈は分かった。シルナがそう思う根拠も。

そうだな。そう言われたら確かに…あながち、ナツキ様の罠じゃないのかも。

…でも、だから何だって言うんだ？

「俺は反対だ」

「…羽久…」

当たり前だろ。反対するに決まってる。

罠じゃなくて、本当にナツキ様が会いたがってる？シルナと？

知ったことかよ。本気で会いたいと思ってるなら、シルナを呼ぶんじゃなくて自分から来い。

それくらいの誠意も見せられない奴に、律儀に会ってやる必要はない。

ましてや、待ち合わせ場所はナンセイ民主共和国。

わざわざアーリヤット共栄圏の国を指定してきたのだ。

何も裏がなかったとしても、疑うのは当たり前だろう。

待ち合わせ場所が、親ルーデュニア聖王国国家であれば…。

せめて、中立国であったら。もうちょっと前向きに考えてやっても良かったが。

アーリヤット共栄圏の参加国ってだけで、ルーデュニア聖王国民である俺達にとってはアウェー同然なのだ。

そんなところに、用件も言わずに呼び出そうなんて。

片腹痛いとはこのことだ。