神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
俺があまりに、頑として譲らないものだから。

困り果てたシルナは、学院が昼休みになるのを待って、学院長室にイレース達を呼んだ。

そして、イレース、天音、ナジュの三人に…。

ついでにマシュリと、令月とすぐりにも、例のナツキ様からの手紙を手渡して読ませ。

それぞれの意見を求めることにした。

令月とすぐりには、本当は教えたくなかったんだぞ。

こんなの、子供が知るようなことじゃないんだから。

でも、呼ばなくてもどうせ、天井裏とか壁の裏に潜んで盗み聞きするだろうし。

盗み聞きした結果、また勝手な行動を起こされたら、また心配で俺の寿命が縮む。

仕方ないから、一緒に呼んで手紙も読ませて、意見を求めることにした。

で、ナツキ様の手紙を読んだ、各々の感想はと言うと。

「ふん。戯言ですね」

イレースは不機嫌そうな顔で、そう吐き捨てた。

まぁ、イレースはそんな反応だろうと思っていた。

「フユリ女王陛下を罠に嵌めておいて、よくもまぁ同じことを学院長に、いけしゃあしゃあと言えたものです。面の皮が厚いにも程があります」

他国の王様だろうと、イレースにかかったらボロクソに貶される。

「じゃあ、イレースは反対なのか?行かない方が良いって?」

「戯言に付き合う義理はありません。用があるなら他人を呼ぶんじゃなく、自分から来なさい」

ほらな。俺と同じこと言ってる。

今回ばかりは、俺も全面的にイレースの意見に賛成だぞ。

「羽久もそう言うんだよ。罠だって…」

と、シルナは困ったような顔で言った。

当たり前だろ。

「天音君…どう思う?」

「え?あ、僕…?…えぇと…」

意見を求められて、天音は少し戸惑い。

「…警戒するのは当然だよね。フユリ様の時のこともあるし…。だけど、信じてあげたいって気持ちもある」

…天音の奴、余計なことを。

人が良いのは天音の長所だが、それはあまりにもお人好しが過ぎるぞ。

「ご立派な考えですね。これから戦争をしようかという相手を、信じてあげたいとは」

これには、イレースもジロリと睨んで嫌味を一つ。

「うっ、そ、それは…。でも…戦争をしようかという相手だからこそ、その戦争を避ける為に最善を尽くさないといけないんじゃないかな」

…正論を言うなよ。

俺とイレースの心が狭いみたいじゃないか。

「話し合いで解決出来る可能性があるなら、その可能性を僕達が摘んでしまうのは良くないと思う」

「綺麗事です。話し合いに応じる気があるなら、パンダ学院長より先に、再三声をかけてきている自分の妹に会って話しなさい」

その通り。

パンダより先に、自分の妹と話せよ。

何で先にシルナなんだ。意味分からん。

「罠じゃなかったとしても、ろくなことを考えてないのは確実でしょう。関わり合いになるべきではありません」

今回は、俺とイレースの意見が完全に一致している。

何だろう。イレースと同意見ってだけで、とても心強い気分だ。
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