神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
イレースと俺は断固反対。天音は…今のところ穏健派。

じゃあ、別の人間にも聞いてみるか。

「ナジュ、お前はどう思う?どうせ俺の心の中、読んでるんだろう?」

「失礼な…。僕だって、常日頃読心してる訳じゃありませんよ」

嘘つけ。そんなこと言って、今も読んでる癖に。

「えぇ。まぁ読んでるんですけど」

ほらな。言わんこっちゃない。

今ばかりは、読みたいなら勝手に読めば良いから。

それより、お前の意見を早く聞かせてくれ。

「そうですね…。実は、皆さんのお悩みをスパッと解決する良い案を思いついたんですけど」

ほう?

「何だ、それは?」

絶対ろくな考えじゃないと思うが、聞くだけなら聞いてやろう。

「僕が学院長の変装をして、アーリヤット皇王に会ってくれば良いんですよ。それなら、もし罠だったとしても死にませんし」

案の定だったな。

名案みたいな顔で、ふざけた意見を出しやがって。

「え?駄目なんですか?名案だと思ったのに」

「ふざけんな。死ななきゃ何しても良いって、そんな訳ないだろうが」

本当に罠だったら、どんな目に遭わされるか分からないんだぞ。

死ななかったとしても、ナジュが死ぬほど苦しむことになるのなら…戦争した方がマシ。

論外だ、論外。

ナジュにまともな意見を期待した、俺が馬鹿だった。

「令月、すぐり。お前達はどう思う?」

お前達なら、ナジュよりはマシな提案を、

「僕も不死身先生と同じこと考えてた。僕が学院長の変装して行こうって」

「『八千代』は変装下手じゃん。俺が行くよー」

マシな提案すると思っていた、俺が馬鹿だった。

論外にも程がある。

「マシュリ!こうなったらお前だ。起死回生の提案をくれ」

「えっ…?…じゃあ練習して、僕が学院長に『変化』して行こうか…?」

そういう意味じゃないんだよ、馬鹿。

馬鹿しかいないのか、この部屋は。俺とイレース以外。

「そんな馬鹿馬鹿言ったって、罠かどうかなんてかかってみなきゃ分からないじゃないですか」

と、ナジュは口を尖らせた。

そうだな。いかにも落とし穴が仕掛けられていそうな場所でも。

実際に歩いて確かめてみないことには、落とし穴があるかどうか分からない。

だから勇気を出して、一歩を踏み出す…。

…って、そんな馬鹿な話があるかよ。馬鹿。

本当に落とし穴があって、嵌まって落っこちてから、「あぁ、やっぱり落とし穴あったんだ」って思ったときには、もう遅いんだぞ。

どうやって、その落とし穴から這い上がるつもりだ?

落とし穴かも…と怯えながら歩くより、ハナから落とし穴危険地帯を歩かなければ、危険はゼロなんだからな。

そこを忘れるなよ。
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