神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「良いか、シルナ。俺は反対だからな」

「わ、分かった。分かったって…」

俺の剣幕に、シルナもたじたじであった。

ナツキ様の手紙なんて、無視してやれば良いんだ。

フユリ様の再三の要請を、ナツキ様が無視しているようにな。

フユリ様の申し出を散々無視してる癖に、自分だけ都合良く相手してもらえると思うなよ。

話を聞いて欲しいなら、最低限の誠意ってものを見せるんだな。

…しかし。

「…でもね、羽久…。私は、やっぱり行くつもりだよ」

俺は譲らなかったが、シルナもまた頑として譲らなかった。

…何だと?

「…何でそこまで信じるんだよ?」

信じたって無駄だぞ。ナツキ様の良心なんか。

いくらこっちが信じても、向こうは平気で裏切るに決まってる。

フユリ様のご兄弟と言えども…今のナツキ様は、俺達の敵なのだから。

しかし、シルナが言いたいのはそういうことではなかった。

「違うよ。ナツキ様を信じてる訳じゃない」

「じゃあ、何でだよ?」

「ヴァルシーナちゃんが関わってるから…」

はぁ?

「ナンセイ民主共和国で、ヴァルシーナちゃんが私を待ってるかもしれないんでしょ?」

「…それがどうした?」 
 
「だったら、私は逃げないよ。彼女から逃げることは、私の過去の罪から逃げること。私は逃げるつもりはない」

…あぁ、そう。

そういうことね。

珍しく、シルナがこれほど頑なな理由が分かった。

ヴァルシーナが関わっているから…。

「ナツキ様じゃなくて、ヴァルシーナの相手をしに行くってことか」

「うん、そう」

「…ほんっと、馬鹿だよ…」

感じなくても良い責任を感じて、背負わなくても良い重荷を背負って。

そのせいで傷つくかもしれないって分かっていても、目を逸らすことが出来ないのだ。シルナは。

馬鹿だからさ。

馬鹿正直で馬鹿真面目で…誰より責任感が強いから。

ヴァルシーナや…過去の自分と向き合うことをやめられない。

…そっぽ向いてしまえば、随分楽になるんだろうに。

はぁ、全く…。

「…分かったよ」

そこまで言うなら、今回は俺が折れるよ。

今回も、だけど。

だってしょうがないだろ。シルナも相当頑固ジジイだし。

シルナが折れるつもりないんだったら、俺が折れなきゃ仕方ない。
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