神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「良かったぁ、すぐり君。まだ起きてたんだね」

まだ起きてたって言うか、むしろ今起きたんだけど。

「どーしたの、ツキナ…。ここ男子寮だよ?」

良からぬ輩に狙われたらどーするのさ。

ツキナの後をつけてきてる不届き者がいないかと、俺はきょろきょろと周囲を見渡したが。

どうやら、そんな愚か者はいなかったようだ。

良かったねー。俺とタイマンして勝てる奴なんて、生徒の中では『八千代』くらいしかいないよ。

「うん、分かってるんだけど…」

「それに、その猫どーしたの?」

どっから引っ張って連れてきたんだ。

ツキナに抱っこされちゃってさぁ。羨ましいんだけど?

「学生寮の裏に迷い込んだんだって。私の寮仲間が見つけたの」

成程。ツキナが引っ張って連れてきたんじゃなくて、猫の方から迷い込んできたのか。

「怪我してたから治してあげて、身体を温めてあげたんだけど…」

「ふむふむ」

「あげる餌がなくて困ってたんだ」

餌。餌か。

学院長せんせーの餌なら、いくらでもあるんだけどなー。

「でもね、先生に相談するにしても、イレース先生の耳に入ったら…『こりゃーっ!』って言われちゃうと思って」

イレースせんせーの耳に入って、「こりゃー!」くらいで済めばかわいーもんだよ。

良くて追放、悪くて殺処分ってところかな。

人間相手にあれだけ容赦ないんだもん。猫相手に情けなんて期待する方が間違ってるよ。

「先生達に見つからないように、お世話してあげたいんだ。すぐり君なら、何か良い方法が思いつくかなーと思って」

「それで、俺を頼ってきたんだね?」

「うん」

「…ふーん…」

何でもないかのような顔を取り繕ってはいるが。

内心、渾身のガッツポーズを決めていた。

だって、これを喜ばずにいられるか?

好きな女の子が、自分を頼って助けを求めに来たんだよ?

全力を以て応える次第である。

ツキナの信頼を得られるなら、猫の一匹や十匹や百匹、いくらでも面倒見てあげるよ。

それに…人の目を掻い潜ってこっそり隠密活動…は、俺の専売特許だ。

正しくは俺達の、だけど。

「分かったよ、ツキナ。俺に任せて」

俺は胸を張ってそう言った。

すると、ツキナの顔がパッと輝いた。

おぉ。見たかったその笑顔。

「ほんとっ?大丈夫?」

「勿論だよ」

「猫の餌、何とかなる?牛乳を温めてあげて、それからキャットフードを外のお店から買ってこないといけないんだけど…」

「そのくらい、よゆーよゆー。ドンと任せてって」

「すぐり君、凄い!」

でしょ?

もっと言ってくれてもいーんだよ。

いやぁ、俺ってなんて頼りになる男。

「『八千代』…隊員その3にも手伝ってもらおうかと思うんだけど、良い?」

「うん!猫ちゃんを助けてくれるなら…」

「よし来た」

それじゃ、早速行動に移すとしよう。
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