神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
船の中で、シルナは割と余裕だった。

「羽久、羽久。チョコ食べよ。長い船旅になると思って、チョコいっぱい持ってきたんだ」

船が出港し、港を離れるなり。

シルナは速攻で、リュックの中からチョコレートの箱を取り出した。

目をキラキラさせながら。

あのリュックの中身、チョコしか入ってないからな。

荷造りしてるところ見てたから、知ってる。

何ならリュックだけじゃなくて、二つ持ってきたデカいスーツケースの片方、中身全部チョコだから。

絶対あのスーツケース、二つも要らなかったぞ。

余計な荷物を増やすのは、海外旅行のタブーだと思うのだが?

…あのな。言っとくけどこれ、遠足じゃないんだぞ。

チョコ旅行でもないから。その辺、シルナは分かっているのだろうか。

「…」

盛大に溜め息をつこうとして、俺はその溜め息を呑み込んだ。

…余裕ぶっこいてる余裕があるっていうのは、良いことだからな。

何が待ち受けているのかと、戦々恐々としているよりはマシだ。

これは多分、シルナなりに気を遣ってくれてるんだろう。

敢えて平常運転を装って、俺に心配をかけないようにと。

分かった。合わせてやるよ。

俺だって鬼じゃないからな。

「これ美味しいよ、すっごく!クッキー風味のチョコでね、チョコクランチみたいに、食べたらサクサクしてるの」

「はいはい。もらうよ」

「どうぞ!飲み物は…はいっ、オレンジチョコラテ」

チョコばっか。

船旅だからさ、これ。あんまり食べたり飲んだりしない方が良いと思うんだよな、俺。

船酔いしたら気持ち悪くなるだろう?

…まぁ、チョコをちょっと摘むくらいは良いか。

一人悶々と考えてたら、余計な心配が募るばかりだもんな。

シルナと二人でチョコ齧ってるくらいが、余裕が感じられて良いだろう。
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