神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
出港から、3時間が経過した頃。

「うぇぇ…。右に揺られ…左に揺られ…」

「…」

「さっき食べたチョコが…美味しいチョコクッキーチョコが…口から出そう…」

「…出すなよ」

出すならここじゃなくて、エチケット袋に出せ。

案の定シルナは、あっという間に船酔いしていた。

な?言わんこっちゃない。

はしゃいでチョコ爆食いするから、こうなるんだよ。

小学生でも、もうちょっと分別があるぞ。

もう歳なんだから、無茶するなっての。

「うぅ…。羽久が…羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…けど、今はそれどころじゃないや…」

「…あっそ」

分かったから、もうしばらくお前…そこで寝てろ。

この調子でナンセイ民主共和国に着いて。

そこで本当に、ヴァルシーナの罠にかかったら、目も当てられないぞ。

まさか、船酔いでへろへろ状態だったせいで落とし穴に落ちました、なんて。

危険を承知で送り出してくれた、シュニィ達に申し訳が立たない。

ナンセイ民主共和国までの船旅は、およそ四日。

ミナミノ共和国よりはちょっと近いけど、それでもそれなりの日数がかかるのは同じ。

更に、ナツキ様が指定してきた日付は、俺達がナンセイ民主共和国に辿り着いた翌日。

かなりの過密スケジュールである。

へろへろで入国した翌日に、ナツキ様と会わなければならないのだ。

まぁ、本当にナツキ様本人が来るのか、それともやっぱりヴァルシーナが待ってるのか、それは分からない。

行って、会ってみないことにはな。

ともあれ。

何がどう転んでも困らないように、しっかり体調は整えておかなければ。

「ほら、こんなこともあろうかと持ってきておいた酔い止め。これ飲め」

「ありがとう、羽久…。…羽久は大丈夫なの?」

俺?

…実は俺もさっきから、目眩に似た症状が出始めていて、ちょっと気持ち悪いんだけど。

シルナよりはマシだ。

「俺は大丈夫だよ。お前と違って、チョコレート爆食いしてないからな」

「そっか…。羽久は偉いね…。君と一緒に来て良かったよ…」

「そうかい」

俺も、シルナと一緒に来て良かったと思ってるよ。

このままシルナが、船酔いへろへろ状態でナンセイ民主共和国に入国することになったら。

そして、そこでヴァルシーナの落とし穴に嵌まるようなことなったら。

あまりにも間抜け過ぎて、死んでも死にきれない。

いや、死ぬつもりはまだないけどな。俺もシルナも。
< 401 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop