神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
そうこうしているうちに、船は無事、ナンセイ民主共和国に到着した。

俺が危惧していたのは、港に着き、船を降りた瞬間に。

ヴァルシーナに指揮された、ナンセイ民主共和国国軍に取り囲まること。

しきりに周囲を警戒しながら、船を降りて入国審査を終えた。

そして、無事にナンセイ民主共和国に入国した…のだが。

「…」

「ふー。やぁっと陸地に着いたよ。ホッとするなー」

と、シルナは気持ち良さそうに伸びをしていた。

…驚くほど、何もなかった。

港にたくさん人はいるけど、誰も俺達の方に目を向ける者はいない。

銃と剣と杖を向けられる覚悟、してたんだけどな…。

ここまで何事もないと、逆に不安になる。

あれ?ヴァルシーナの罠は?

まだか?まだなのか?

てっきり、港に着いた瞬間に取り囲まれるものだと…。

「おい、シルナ」

「ナンセイ民主共和国か〜。旅行ガイドブックで調べてみたところ、この国、美味しい餅菓子があるんだって。果物のクリームをたっぷり挟んだ餅菓子…」

「おい。話を聞けって」

何が餅菓子だよ。

観光に来た訳じゃないんだよ。分かってるか?

旅行ガイドブックなんて読んでる場合かよ。

「…」

俺は再度、周囲をきょろきょろと見渡した。

殺気立っている様子は…ない。

…どうやら、入国早々襲われる訳じゃなさそう。

ひとまずは…安心か。

いや、全然安心出来ないけど。

港じゃないなら、きっとホテルだな。

滞在予定のホテルに到着した瞬間、待ち構えていたナンセイ国軍に取り囲まれるんだ。

そうに違いない。

「大丈夫だよ、羽久。どっしり構えておこうよ」

「…お前、もうちょっと周りを警戒しろよ…」

「そんなに気を張ってたら疲れるよ。無駄なところで神経をすり減らすのはやめよう」

…シルナの癖に、真っ当なこと言いやがって。

お前がろくに警戒しないから、俺が代わりにやってるんだろ。

…まぁ良い。とりあえず、港が戦場になる事態は避けられそうだ。

「ホテルに向かうか…」

「そうだね。ナツキ様に会うのは明日だし。ちょっとでも旅の疲れを取っておかないと…」

と、シルナが言いかけたそのとき。

「失礼。ルーデュニア聖王国からお越しの、イーニシュフェルト魔導学院の先生方ですか?」

突然声をかけられて、俺もシルナも、飛び上がるほど驚いた。
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