神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
やはり来たか、刺客が。

思わずポケットの中の杖を握り締め、慌てて振り向くと。

そこにいたのは、にこやかに微笑む、パリッとしたスーツを着た女性。

ヴァルシーナではない。誰…?

「私はこの度、お二方をご案内する役目を仰せつかっております。ナンセイ民主共和国外務省の者です」

「え、えっと…。…外務省…?」

…ナンセイ国軍から来た刺客、とかじゃなくて?

少なくとも、彼女から敵意は全く感じなかった。

ということは、俺達を攻撃しに来た訳ではないのか。

…信用して良いのか…?

「はい。滞在中、何か必要なものや不都合がありましたら、何でも私に申し付けください」

「…」

「それでは、まずはホテルにご案内しますね。お二人共お疲れでしょう。今夜はゆっくり休んでくださいね」

そう言って微笑むガイドさんの顔に、嘘偽りはなさそうだった。

いや…正しくはガイドさんじゃなくて、外務省の人らしいけど…。

「…どう思う、シルナ?」

俺は小声で、こっそりシルナに尋ねた。

ああやって笑顔を見せて、俺達を油断させようとしてる…とかじゃないよな?

「う、うーん…。少なくともあのお姉さんは、悪いこと企んでるような人じゃなさそうだね」

「それは…俺もそう見えるけど…」

悪いこと企んでる人は、大抵、悪いこと企んでるようには見えないもんだよ。

いつ豹変して、後ろから襲ってくるか分かったものじゃない。不安。

「それに、いくら怪しんでも…。今は、彼女に従うしかないんじゃないかな…?」

…そうだな。

案内なんて要らないから帰ってくれと言っても、引き下がってくれそうにないし。

例えあのガイドさんが罠だとしても、従わざるを得ない。

…仕方ない。覚悟を決めるか。

「…分かったよ」

ひとまず、ガイドさんに従ってやる。

でも、もし怪しい動きを見せたら…そのときは、俺も黙ってないぞ。

「どうぞ。こちらです」

「…あぁ」

にこやかに微笑むガイドさんに連れられ、俺は警戒心丸出しで、滞在予定のホテルに向かった。
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