神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…しかし。 

「こちらが、ご予約されたホテルになります」

「…あ、そう…」

ホテルに着いたら、今度こそナンセイ国軍に取り囲まれる…。

…なんてことはなく。

立派な建物の、しかし何の変哲もないホテルだった。

外に警備員は立ってたけど、俺達には見向きもしない。

どうやら、襲われる訳ではなさそう。

じゃあ部屋か。ホテルの部屋に着いた途端取り囲まれるパターンか。 

そう思って、俺は相変わらず警戒を解かずに、ガイドさんについていったが…。

「こちらが、お二人が宿泊するお部屋です」

「…あ、どうも…」

鍵を開けて部屋に入っても、そこには誰も潜んではいなかった。

最上階の部屋。豪華な調度品。大きなベッドと絶景の眺め。

…高待遇のVIP扱い。

てっきり銃剣向けられると思ってたから、拍子抜けなんだけど。

「…何もない…よな?」

俺はきょろきょろと室内を見渡し、ベッドの下も覗いてみた。

誰か隠れてるかと思って。

しかし、そこには誰もいない。

じゃあ床下か?天井裏か?令月とすぐりみたいに潜んでるのか?

それなのに、ガイドさんは。

「…あの、何か気になることでも?」

むしろ、警戒しまくっている俺達を不審に思ったらしく。

困ったような顔で、俺達にそう尋ねた。

あ、いや。

「このお部屋はお気に召しませんでしたか…?もし気になるようでしたら、他のお部屋をご用意しても…」

「あ、違うんだよ、あの…大丈夫。この部屋で良いよ」

シルナは慌てて、手をぶんぶん振りながら言った。

「そうですか…?でしたら、こちらでお寛ぎください」

「う、うん。ありがとう」

「何か必要なものはございますか?」

「な、ないない。大丈夫。…あっ、でも出来たら、その」

「はい?」

「…ナンセイ民主共和国名産の、美味しい餅菓子食べてみたいな…」

…シルナ。お前って奴は。

旅行に来たんじゃないって、さっき言ったんだが?忘れたか?

しかしガイドさんは、そんなシルナの我儘を聞いても、嫌な顔など全くせず。

それどころか。

「畏まりました。すぐにご用意します」

にこりと微笑んで、そう答えた。

…用意してくれるのか。本当に?

それ、毒とか仕込まれてないよな…?

甘いものに毒混ぜたら、シルナなんて簡単に暗殺出来るからな。

この国で出された食べ物は、極力口にしないのが吉だぞ。
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